資料
日本ウイルス学会
理事長 野本 明男 殿
平成18年12月22日
日本ウイルス学会将来構想検討委員会 委員長 永田 恭介
日本ウイルス学会の将来にむけての提言 その2
日本ウイルス学会(以下、本学会)の理事長の諮問委員会である本学会将来構想検討委員会は、「日本ウイルス学会の将来にむけての提言*(以降、「提言、その1」)」で述べられている諸課題についての取り組みの現状分析を行い、さらに今後の本学会のあり方と進むべき方向の検討を行った。ここに、委員会でとりまとめた具体的な方策案を提言する。本学会外部への対応や働きかけ(今回の現状分析および提案方策4)については、早急に改善が求められる。
(*平成17年2月17日付け答申、平成17年3月19日付け第回本学会理事会承認事項)
現状分析および提案方策1:本学会の広報および学会-学会員間と学会員-学会員間の情報交換の促進
「提言、その1」で述べられている本学会のホームページの充実と資料・データなどの集積については、提言内容を実施する努力が始まっているとの評価であった。このような強化策の実施を基盤に、下記の諸点について更なる改善、充実が当面の課題である。
(1) |
情報の有効利用:学会-学会員間と学会員-学会員間の情報交換を促進する。特に、後述する提案方策3に関連して、文部科学省のパブリックコメントや感染症法の改正などの公的な情報の提供に努める。また、各種の集会案内、就職情報などの掲載努力をすすめる。特に、本学会と会員との間の情報の共有については、早急にRSSフィーダーの導入が必要である。 |
(2) |
リソースの有効利用:本学会員が所有する知的・物的財産(ウイルス学/研究関連用語の解説、ウイルスの形態写真/病理組織像、ウイルス株/遺伝子クローン/抗体など)を集積し、公表する。 |
(3) |
情報的社会貢献:ニュース性の高いウイルス/ウイルス疾患についての解説や海外のアウトブレイク発生に際してフィールドで活躍している研究者の活動状況などについて積極的に公表し、本学会の社会への貢献を発信する。 |
現状分析および提案方策2:学会および学術集会の運営について
「提言、その1」で述べられている学術集会のあり方については、概ね提言内容を実施する努力が行われているとの評価であった。オーバービューの実施、展示ブースの増設、冠ワークショップの実施などについては、高く評価でき、今後の拡充を期待する。また、「提言、その1」で述べられている各種専門委員会の設置については、理事長のリーダーシップのもと確実に実現されており、大きな改善が見られた。今後の方策として、以下の諸点について改善、充実が望まれる。
(1) |
知的面での人材育成:学術集会における各セッションでのオーバービューの実施は、今後も実施されることが望まれる。ただし、講師自身の研究内容に重きを置くのではなく、学術集会の間の期間に公表されたウイルス学/研究の進歩に焦点をあわせたレビューが必要である。中堅・若手を登用し、オーバービューの意図をよく説明して、実施するのが現実的である。この方策は、「提言、その1」で述べられている人材開発と人材育成にも資するものである。さらに、温故知新という意味で、またウイルス学研究の歴史的認識に乏しい若手の意識改善に向けて、いわゆる「長老」による「歴史的背景を基盤としたウイルス学の将来に向けてのレクチャー」を継続的に持つことは有用と考えられる。 |
(2) |
技術面での人材育成:最近の医科学修士大学院の増加に伴う大学院生会員の構造変化やひろくウイルス学/研究領域からの大学院生の本学会へのリクルートを考慮し、学術集会、あるいはそれ以外の場において、会員を対象に組織学概論や病理学概論のような教育的講義や最新のテクニカルチップについての講習会/講義を実施する。 |
現状分析および提案方策3:人材開発と人材育成
明日のウイルス学/研究を築くためには、質・量ともに若年層の充実が必至である。「提言、その1」で述べられている人材開発と人材育成については、以下にその内容を再掲し、今後の努力を期待する。
(1) |
知的環境づくり:若手研究者の研究に対するモチベーションを本学会としての引き上げることが必要である。たとえば、若手研究者の学術集会、あるいはそれ以外の場での口頭発表の機会を増やし、またあるいは、学術集会とは別に若手研究者の参加を中心において開催される特別なワークショップの開催などを学会として支援する。 |
(2) |
中高生の教育支援:将来のウイルス学研究をめざす人材育成のため、高校、中学、あるいは小学校に出前授業を行なうことを学会として支援する。 |
(3) |
大学生教育:大学生や修士大学院生を対象とした「分かりやすい、面白い、ウイルス学レクチャーシリーズ」を学術集会以外の場で開催することを学会として支援し、学会HPにも記事を掲載する。 |
(4) |
社会人教育:社会人や医療支援者、あるいはバイオ関連企業を対象に、「ウイルス講座」を学術集会以外の場で開催することを学会として支援し、学会HPにも公開する。 |
(5) |
国際渡航支援:国際学会への参加を支援する奨励システム(これまでの杉浦基金と同様な制度)や「学会奨学生」や「学会フェロー」のような、学会支援型の大学院生・博士研究員制度の創成を目指す。 |
現状分析および提案方策4:学会外部(主に政府)との対応
「提言、その1」で述べられている学会外部(メディア、政府、海外など)との対応については、今後とも、学術集会における討論を通じたメディアへの対応、ウイルス学/研究領域における社会のニーズの調査、また海外ウイルス学研究やウイルス疾患制圧にかかわる機関との協力体制の充実などの諸点について、継続的に努力を続ける必要がある。さらに、これらの点に加えて、以下に述べる点に留意し、早急に対応策を講じることを強く要望する。
感染症病原体のリスクマネージメントは、従前からの重要な課題であった。また、バイオテロリズム対策の実施は、地球的視点からも急務の課題である。最近では、本邦においても、遺伝子組換え生物実験に関する規制の法制化や感染症法の改正により、国際基準での対応がなされている。しかし、感染症病原体を対象とした「バイオテロリズム対策」と「研究(基礎/臨床)、臨床検査」とは、それぞれ異なる視点に基づく規制/基準により実施されるべきものである。現在、提示されている規制/基準案は、これらの視点の異なる研究を包括的に対象としたものであり、そのような規制/基準の施行は、学問の進歩を妨げるのみならずバイオテロリズム対策を目指した研究の障害にすらなり得る。基礎研究者などの意見は、たとえば基本案が示された後に行われるパブリックコメントの収集などの方法でしか反映されず、根本的な体系を変更させることができないのが現実である。このような背景から、以下に本学会の具体的な方策を提案するものである。
ワーキンググループの役割は、基準の策定のみならず、ひろく学会員に状況(基準策定の必要性、基準のたたき台の公表など)を発信し、パブリックコメントなどに対して十分な対応が可能な体制を築くことも含まれる。
(1) |
本学会を中心に、ウイルス学/研究の現状にそくした基本的な取り扱いに関する基準(以下、基準)を策定し、公表する。他の学会の賛同を待つ必要はないが、適宜情報交換を行い、協調的にすすめることは妨げない。 |
(2) |
基準の策定は、可及的速やかに行う必要がある。少なくとも政府案が出てくるよりも前に、積極的に先手をとって基本路線を打ち出すことが必要である。 |
(3) |
バイオセーフティー委員会と組換えDNA委員会を代表する委員に加えて、委員会に属していない適当な会員による新たなワーキンググループを発足させる。現行のバイオセーフティー委員会と組換えDNA委員会の協業では一般業務とのすみわけの問題も生じる可能性に鑑みて、上記を提言する。 |
(4) |
本ワーキンググループは、至急に基本的な基準の策定を行う。会員すべての意見を集約して、策定するのではなく、まず基本的な考え方と基準を示す。会員の意見は、立場によって異なることが予想されるので意見の集約は難しく、批判を覚悟でたたき台をつくることが必要である。 |