微生物学講義録

 は じ め に

 

 これは東大医学部の学生にプリントとして配ったものである。きっかけは、筆者が東大漕艇部部長をしていた時、高山、平田という医学部の学生が対抗エイトに乗っていたことがあり、講義に出られないので、簡単な講義録を作ったことにある。その後、定年退官し、感染研、国際医療センター、感染研と転々としながら、勉強した処を加えて行った。従って、これは自分の勉強録のようなものである。体系も気にせず面白いと思った事を書き連ねたような処もある。

 近来、種々の事から、市民との対話の必要性を痛感し、その一助となればと考え、原稿をウイルス学会ホームページに提供することとした。従って、その内容は、完全に筆者に責任がある。又、専門外の部分が多いので、努力はしたつもりであるが、誤りもあるかと思う。

 以下に、自分が読んで、非常に参考になった教科書を挙げる。

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Schaechter, Medoff, Schlessinger : Mechanism of Microbial Disease.2nd ed.Williams& Wilkins 1993.
……バランスがとれた最も推奨する教科書。

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Neidhart Ingram Schaechter : Physiology of the Bacterial cells. Sinauer 1990.
……細菌の構造・生理の記載が抜群である。

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Gilligan, Shapiro, Smiley : Cases in Medical Microbiology and Infectious Diseases.
ASM.1992.
……臨床ケースの問題集。解答も充実しているので演習によい。第2版が出たが、こちらの方はカラー写真も鮮明である。しかし初版にあったもので、一部面白い症例が削除されている。

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Ptashne : A Genetic Switch. 2nd ed. Cell Press, 1992.
……λファージを素材に遺伝子発現調節をよく解説している(日本語訳はよくない)。

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Dimmock, Primrose : Introduction to Modern Virology. Blackwell 4th Ed. 1994.
……ウイルス学のよい入門書。

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Salyers, Whitt : Bacterial Pathogenesis,  A Molecular Approach ASM Press, 1994.
……細菌の病菌性の分子生物学入門。新しい試みで、章によっては大変面白い。
2nd Editionが出た。完全に書き直してある。

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Janeway, Travers : Immunobiology, Current Biology  Limited, 1994.
……免疫学で一寸分からない処を調べるのによい。この本の索引の作り方はこれに習った。

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Schleif : Genetics and Molecular Biology(2nd  Ed.)Johns Hopkins, 1993.
……他の本にないアプローチがあり refreshing。

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Synder, Champness: Molecular Genetics of Bacteria ASM Press, 1997.
……明快。

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Glick, Pasternak : Molecular Biotechnology 2nd Ed. ASM Press, 1998.
……遺伝子組み換えに関する解説書。

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Wakelin : Immunity to Parasites 2nd Ed. Cambridge University Press, 1996.
……寄生虫の面白さと不思議さを紹介し、色々な問題を考えさせられる。

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Cossart, Boquet, Normark, Rappuoli: Cellular Microbiology, ASM Press, 2000
……18章はこの本を、紹介したものである。新しい分野で、急速に研究が進みつつある分野の為か、本としては、生出来で読みにくい。

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Cooper: the Cell, a Molecular Approach (2nd Ed.) ASM Press, 2000
……纏まりがあり、cell biologyの理解に好適。Cossart らのCellular Micorbiologyを理解するには必読。

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E. Bier: The Coiled Spring. Cold Spring Harbour Laboratory Press. 2000
……分子発生学に関する最近の解説書で面白い。発生に於ける場の分子的な基礎がよく分かる。

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J.S. Flint, L.W. Enquist, R.M. Krug, V.R. Racaniello, A.M. Skalka: Principles of Virology,  ASM Press, 2000.
……ウイルス学全体をもう一度見直す為に読んでいるが、入門書としては高度である。通読出来るサイズの本である。

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 なお感染研のホームページ「感染症の話」( http://idsc.nih.go.jp/kansen/index.html )に各感染症について図や写真入りで解説が出ている。

 

 講義部分の免疫と微生物遺伝に関しては、それぞれ感染症研究所免疫部・竹森利忠部長、東大医科学研究所生物物理化学・小林一三助教授に査読・加筆して頂いた。その後加筆した部分もある。

 演習の中の分子遺伝学の問題は Tufts大学分子生物学コースの演習問題から適当なものを選び、解答しやすい様に作製した。又、東大医学部1年生の期末試験も収録してある。答えが一つに決まらないようなものもある。
 実習書は当時東大医学部細菌学教室で助手をしていた小林君(現東大医科研助教授)、岩本君(現東大医科研教授)、当時の国立予防衛生研究所細菌部の中村明子さんなどが、試行錯誤の上作ったものである。実習準備試薬リストや日程表は当時の技官の内藤彩子さん、五十嵐博子さんが作ったものである。図は筆者の手書きから、大矢根万里さんがワープロに入力し直した。最終稿の手入れについては塚田昭子さんのお世話になった。
尚、便宜の為、印刷物として丸善出版サービスセンターからの入手可能とする様にした(ISBN4-89630-070-X C0045 \2,700E)。

 

吉倉 廣
前国立感染症研究所にて  
平成14年6月6日

改訂 平成16年3月19日