12−2:T7 ファージ
T7
ファージの遺伝子は大きく2つのブロックに分けられる。初期遺伝子と後期遺伝子である。初期遺伝子は左
20 %、後期遺伝子は右 80
%を占める。これらの遺伝子の発現はどう調節されているのであろうか?
(1)T7 ファージを大腸菌に感染させると、初期、後期いずれの
mRNA も作られる。
(2)感染の時CMを加えておくと、初期 mRNAしか出来ない。
(3)リファマイシン(Rif)は大腸菌の RNA
ポリメラーゼのベータサブユニットに結合し転写を抑える。Rif感受性のRif s
大腸菌にT7ファージを感染させ、すぐ Rif を加えると、初期mRNA
の合成は 抑えられる。しかし、後期(8分後)にRifを加えても後期
mRNA の合成は抑えられない。つまり、初期mRNA はRif感受性Rif s
であり、後期mRNA はRif耐性Rif r である。
(4)gene 1 に変異のあるT7 ファージは後期mRNA を合成できない。
(5)T7DNA を鋳型にし、大腸菌 RNA ポリメラーゼによるin vitro
の転写を行うと初期 mRNAだけが出来る。
(6)T7 感染大腸菌 RNA
ポリメラーゼを用い同様の実験をすると、後期 mRNA
しか合成されない。
以上の実験から、幾つかの事が推論される。
実験(2)から、初期 mRNA は大腸菌の RNA
ポリメラーゼにより転写され、後期 mRNA 合成には T7
ファージ感染後新たに作られる蛋白が関与する事が結論される。この蛋白はおそらく後期mRNA
を転写する RNA ポリメラーゼであろう。
実験(3)から、後期 mRNA を合成する RNAポリメラーゼはリファンピシン耐性(Rif
r )で、リファンピシン感受性(Rif s )の大腸菌 RNA
ポリメラーゼとは異なると推論出来る。
in vitro の実験(5)(6)から、T7 の初期および後期 mRNAはそれぞれ別の転写特異性を持つ
RNA ポリメラーゼで転写される事が更に確認される。
そして、実験(4)から gene 1 は、Rif r の後期遺伝子を転写するポリメラーゼの活性に必須の遺伝子である事が示唆される。
T7
ファージの遺伝子発現は次のように制御されている。感染するとすぐ大腸菌
RNA ポリメラーゼは初期遺伝子プロモーターPEに結合し、TE
迄転写する。そこで、初期遺伝子 gene 0.7
の産物が出来るが、これは、宿主ポリメラーゼを燐酸化する酵素で、燐酸化によりポリメラーゼ活性は1/3
に下がる。(即ち、宿主 DNA の転写が1/3 に下がる。この時点では T7
の初期遺伝子は転写された後だから、T7 の増殖には影響ない)。gene
1はやはり初期遺伝子で 後期遺伝子を転写する RNAポリメラーゼ(Rifr)である。後期遺伝子の
gene 2 は燐酸化された宿主 RNA
ポリメラーゼと結合し完全に宿主の遺伝子発現を抑える働きがある。
後期遺伝子にはファージ粒子形成に必要な構造遺伝子、溶菌を起こす遺伝子がある(図12-2)。