第4章 細菌は栄養分をどう取り込むか?

 

 細菌は環境に栄養が無くなると直ちに増殖を止める。この調節は非常に効率が良い。細菌は、動物の一個の細胞と較べても、非常に小さく栄養を蓄える余地もない。この為、細菌の栄養摂取機構、摂取成分の代謝、菌の増殖は、菌を取り巻く環境に直ちに対応する必要がある。

 この章では、栄養の細胞内への取り込み機構を説明するが、後に例示するように、栄養分の代謝と深く連動している(図4-(1))。

 グラム陰性菌の栄養摂取には外膜、ポーリン、細胞壁、細胞膜が関わる。細胞膜には、栄養を取り込む為の特別な蛋白質が埋め込まれている(図4-(2))。第3章で説明したように、多くの栄養成分は、単なる拡散現象では細胞膜を通過出来ないのでこのような蛋白を利用し細胞質に取り込まれる。次に幾つかの取り込みの機構を紹介する。

 

図4-1

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 facilitated diffusion : グリセロールなどが、特別な膜蛋白(specific carrier protein )を介し、細胞膜内の濃度勾配に沿って拡散で細胞内に取り込まれる。グリセロールは細胞内でリン酸化されるので、常に外側の濃度が高い。拡散なのでエネルギーを必要としない(図4-(3))。

 active transport : 細胞内外のpH勾配を利用する。正確にはsecondary active transport である。まずpH勾配ができ、その上で働く二次的な機構だからである。ラクトースの取り込みがその一例で、細胞膜にあるpermease (lacY 遺伝子産物)により、pH勾配を利用し取り込まれる(図4-(4))。

 pH勾配は呼吸(respiration)の最終過程にある電子伝達、或はATPからADPへの変換を伴うプロセスで作られる。即ちこの取り込みは 全体として見るとエネルギーを必要とする。(5-1-2参照)

 

図4-(3)(4)(5)

 shock sensitive transport :アミノ酸のヒスチジンの取り込みがこれに当たる。グラム陰性菌には外膜があるので細胞膜と外膜の間に空間が出来る。これをperiplasmと云う。ここには多くの酵素蛋白が存在するが、ヒスチジンはこのような蛋白の一つHisJと結合し細胞膜 にある HisM、 HisQ、 HisP の蛋白複合体を介し取り込まれる。ATPを使った HisP のリン酸化により、蛋白複合体の構造が変化する事が取り込みに必要である。

 外膜を浸透圧ショックで壊すとHisJが失われ、ヒスチジンを取り込まなくなるので shock sensitiveと云われる(図4-(5))。

 group translocation : active transport と異なり、pH 勾配を必要としない。細胞膜を通過すると取り込まれた物質がリン酸化される点でグリセロールの取り込みに似ている。しかし、その機構自体は、取り込まれる物質の濃度勾配を利用していない。物質は取り込まれると、その物質の代謝経路の第一産物 となる(図4-(6))。

 PTS (carbohydrate phosphotransferase )を利用するグルコースやマンニトールの取り込みがそこの代表例であり、発酵経路を持つ菌で発達している。代謝経路とカップルしているのが特徴である。

 ラクトースなどはグルコースに分解されないと利用されない。従って、グルコースがある時ラクトースを取り込むのは代謝効率を下げることとなる。従ってグルコースが存在するときラクトースの取り込みを抑える機構がなくてはならない。ラクトースの 取り込みはラクトースoperon の permease (Lac Y)が行う。つまり、グルコースが存在する時にラクトース operonが OFF になる機構がなくてはならない。 いまgroup translocation によりグルコースが取り込まれると、cAMP合成酵素を活性化するリン酸化されたVglc (P-Vglc)が脱リン酸化され、cAMP合成活性は減少する。結果 cAMPは減少する。cAMP は CAP 蛋白と結合しラクトース operon の転写を促進するのに必要物質である。よって、グルコースが取り込まれると、cAMP が減少し、ラクトース operon はOFF となり、ラクトース利用も OFF になる(図4-(7))。

 

図4-(6)

 <問い>Group translocation はエネルギー要求系かエネルギー保存系か考えて見よ。その理由は?グルコースそのものが菌のエネルギー源である事に注意する。

 

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