微生物学演習問題

 1989〜1997年の東京大学医学部で使用した試験問題を以下紹介する。正解は一通りとは限らない。寄生虫学は含まれていない。

 

<1989年度細菌学期末試験>

  1. 現在のわが国の医療において、感染症としては如何なる問題があるか、考える処を述べよ。

  2. 図(本文図1-1参照)はアメリカのCDCが発表した院内感染の頻度統計である。アメリカ国内の病を、非教育病院、500床以下の教育病院、500床以上の教育病院に分け、1980年から1983年の4年間のそれぞれの院内感染の頻度を示してある。いかなる結論が出せるか。また、院内感染を防ぐ上でどの様な対策が必要か。

  3. 臨床で得られる細菌検査材料を、本来無菌的であるもの、常在菌叢を含むもの、準無菌的なもの(少量の菌がいる)に分け、それぞれの検査において注意すべき点と手順の原則を簡単に記せ。

  4. 次の菌を形態と染色性(グラム染色陽性か陰性か、抗酸性か、など)により分類せよ。それぞれの起こす病気も記せ。この中で絶対嫌気性菌はどれか。
      a.Staphylococcus aureus
      b.Escherichia coli
      c.Vibrio cholerae
      d.Clostridium botulinum
      e.Mycobacterium tuberculosis

  5. ウイルスは粒子内ゲノムがDNAかRNAかで分類し、RNAウイルスについては、分節か否か、さらに二重鎖か一本鎖か、一本鎖ならプラス鎖かマイナス鎖か(プラス鎖はmRNAと同じ極性のRNAを云う)で分類する。次のウイルスを以上の方法で分類せよ。感染性核酸がウイルスから確実に分離できるものはどれか。
      a.influenzavirus
      b.poliovirus
      c.herpes simplex virus
      d.human immunodeficiency virus

 

<1990年度細菌学期末試験>

  1. Staphylococcus に関する次の問いに答えよ。

    1. Staphylococcus aureus による主な病気を挙げよ。その内特に重症なものはどれ か?

    2. Escherichia coli と Staphylococcus aureus いづれにも存在するのは次の内どれか?
        1.teichoic acid. 2.peptidoglycan. 3.lipopolysaccharides.

    3. Staphylococcus epidermidis と Staphylococcus aureus を簡単に区別する方法は?

    4. Staphylococcus と Streptococcus を区別するにはどうしたら良いか?

    5. 病院内感染で Staphylococcus aureus が大きな問題になっている。その原因はどこにあるか記せ。
       

  2. 33才商社員(男性)が妻(29才)と1.5才の息子とインド、パキスタン、タイと旅行し帰国した。帰国の翌朝、息子の食欲が無くなり元気が無くなった。午後になり、下痢便が出て体温が 38 度に上がった。下痢が続き、食欲なく、皮膚が乾燥し、目がぎらぎらしてきた。母親も腹痛と下痢が始まった。夜になり、状態が悪いので息子を医者に見せた処、すぐ入院と云う事になった。一方、母親は特に治療せず症状はおさまり、父親は軽い下痢を経験したに留まった。
     次の問いに答えよ。

    1. 入院後ただちに行う治療は何か?

    2. 便には血液白血球などは見つからず、便の培養は正常菌叢と云う事であった。どのような病原体を考えるか?

    3. 主な腸管感染細菌を3つ挙げ、その感染発病機構を簡単に記せ。

    4. 菌の病原性は種々の遺伝子産物により決まる。次の実験はブタに菌を経口投与し病原性をチェックした結果である。この実験からどの様な結論が出せるか?

      小腸への菌の定着 下痢動物の頻度
      プラスミドなしの菌 なし 0/15
      K88線毛を持つ菌 あり 3/11
      Enterotoxinを出す菌 なし 0/14
      K88とEnterotoxin両方持つ菌 あり 12/16

       

    5. プラスミドの定義は?
       

  3. 現在診療上の事故による医療従事者感染が問題になっている病原体を挙げよ。その予防法は何か?

  4. インフルエンザウイルスにつき次の問いに答えよ。

    1. インフルエンザウイルス粒子の構造の略図を書け。次のものを図に入れる事。
      核酸(RNA か DNA か、1本鎖 か 2本鎖か、分節か非分節か)、血球凝集素、ノイラミニダーゼ。ポリメラーゼを含むか含まないか、含む場合はそれも入れよ。

    2. インフルエンザウイルス感染における血液凝集素とノイラミニダーゼの役割を記せ。

    3. インフルエンザウイルスの抗原変異とエイズウイルス(HIV)の遺伝子の変異を比較した時、インフルエンザウイルスに特徴的に存在するメカニズムは何か?
       

  5. タンパク質 X の合成に関与するオペロンはレプレッサー、プロモーター、オペレーターにより制御さ れている。X が存在すると合成系は off になる。これは X とレプレッサーが複合体を作り、オペレーターに結合する為である。

    1. どのような種類のレプレッサーの変異が考えられるか?その表現型により分けて少なくとも2種類挙げよ。

    2. その変異遺伝子と野性株遺伝子の diploid(正確にはmerodiploid)を作った時の表現型を述べよ。

  6. X と呼ばれる細菌の修復系は thymine dimer を除去する。いま、野性株 X+と変異株 X−があるとする。
     ラムダファージに紫外線照射し同量のファージを X+または X−の菌に感染させると、X−よりも X+の 菌でより沢山のプラックが出来る。ファージの紫外線照射による不活性化曲線の解析から X は inducibleであるとの仮説が出された。これを検証する為、紫外線照射ファージをクロランフェニコール存在又は非存在下で X+ または X−に感染させ、thymine dimer の除去を調べると、クロランフェニコール存在如 何に拘わらず X−では除去されず、X+ では50%除去された。

    1. クロランフェニコール存在非存在下の実験は何を知る為に行ったのか?もし、Xが紫外線照射で誘導される系とすると、誘導は如何なるものか(ヒント:X系オペロンの転写誘導か、X蛋白の活性化か、等可能性を考えてみる事)。

    2. もしクロランフェニコール存在下で X+菌への感染で5%除去が起こり、非存在下で 50 % 除去が起こったとしたら、どう考えるか(X−ではいずれの条件でも全く除去は起こらない。)?

 

<1991年度細菌学期末試験(抜粋)>

  1. lac operon を完全に欠損するSM(ストレプトマイシン)耐性メス E.coli #1 株がいる。
     F'(dp1)は E.coli の lac operon のコード領域(プロモーター領域を除く)を組み込んでいる F 因子である。この lac operon は接合伝達に必須の transfer 遺伝子(tra)の下流に挿入され、その結果 lac 遺伝子が tra 遺伝子と共に一つの mRNA として転写されるようになっている。
     F'(dp1)を持つ SM 感染性オスの E.coli と E.coli #1 株とを接合させ、SM を含むプレートで菌を増やすと、lactose を分解できるコロニーが得られた。

    fertility inhibition の現象に注意し次の問いに回答せよ。fertility inhibitionとは次のような現象を云う。薬剤耐性因子 R100 をオスの E.coli に導入すると接合伝達が抑制される。これは、 R100 の finO遺伝子産物がF 因子或いはR 因子上にある finP 転写産物複合体を作り、接合伝達に必要な transfer 遺伝子の発現を抑制するためである。F 因子では finO は欠損している。

    1. 次の問いで正しいものにマルをつけよ。またその理由を記せ。
      (1) このようにして得られたコロニーの菌のβ-galactosidase 合成は
        (a)lactose により誘導される。(b)lactose の存在如何に拘わらず起こる。
        (c)lactose の存在如何に拘わらず起こらない。
      (理由)

        グルコースによる抑制を
        (a)受けない。(b)受ける。
      (理由)

      (2) Lac+ の性質は接合により
        (a)伝達可能である。(b)伝達されない。
      (理由)


      (3) アクリジンオレンジ存在下で培養すると、ラクトースを利用する性質は
        (a)失われる。(b)失われない。
      (理由)
       
    2. このコロニー由来の菌に R100 を導入するとβ-galactosidase の合成は次第に低下し遂にはゼロになる。また F の伝達は非常に稀となる。しかし低頻度ではあるが、このような R100 導入菌からラクトースを 利用できる Lac+ 変異菌が取れる。このうち、変異菌 A は F および Lac+の性質を高頻度で伝達できたが、R100 の伝達は出来ない。もう一つの Lac+ 菌 B は F、R100 いづれをも高頻度で伝達できた。
      (1) R100 を導入するとβ-galactosidase の発現が次第に無くなり遂にはゼロになるメカニズムを推定せよ。
      (2) 変異菌 A はどの様な変異により出来たと考えられるか?
      (3) 変異菌 B はどの様な変異により出来たと考えられるか?
       
  2. ある細菌学者が急に痴呆状態になり、これが M. chiho の感染によるものと判明した。この M. chiho に感染する二重鎖 DNA virulent phage が最近発見され話題となっている。その phage は次のような性質を持つ。
    感染後、初期後期2つのクラスの phage の RNA 合成がある。

    -初期 RNA は蛋白合成阻害剤クロラムフェニコールで阻害されない。
    rifampicin は、rifampicin 感受性菌ではこの RNA 合成を抑制し、rifampicin 耐性 菌では抑 制しない。
    -後期 RNA は、クロラムフェニコール存在下では全く合成されない。
    rifampicin は、rifampicin 感受性耐性菌いずれでもこの RNA 合成を抑える。
    -遺伝子 69 に変異を持つ phage は初期 RNA のみを合成し後期 RNA は合成しない。

    次の問いに答えよ。
    (1)初期 RNA がクロラムフェニコールにより合成阻害を受けない理由は何か?
    (2)初期 RNA 合成が rifampicin 感受性、非感受性菌で異なる理由は何か?
    (3)後期 RNA がクロラムフェニコールで合成阻害を受ける理由は何か?
    (4)後期 RNAを転写する RNAポリメラーゼの由来(phageか菌か)とその性質は?
    遺伝子 69 の役割は何か(可能性は一つとは限らないが一つ挙げればよい)?
    (5)もし、RNA ポリメラーゼの温度感受性変異株が得られたとする。これを用い、(4)の答えで出した仮説を証明するにはどのような実験をしたらよいか?その実験結果はどう予測されるか? phage 感染の各ステージで合成される RNA とポリメラーゼとの関係に十分注意し回答せよ。

  3. 次の用語を説明せよ。いずれも実習で行った実験に関係する。
     (1) lysogeny
     (2) complementation
     (3) restriction and modification
     (4) conjugation
     
  4. ウイルスは病原性の上から以下の3群に分類され得る。
     (1) 粘膜表面に感染し、そこで増殖し病気を起こすもの。
     (2) 粘膜表面に感染・増殖の後、血流(または神経系)を通じ他臓器に感染、傷害をもたらすもの。
     (3) 直接血流に注入され標的臓器に行き、そこで傷害を起こすもの。

     以下のウイルスにつき問いに答えよ。2〜6の答えは一つとは限らないが、一つ挙げればよい。
      A.poliovirus  B.hepatitis C virus  C.papillomavirus  D.rotavirus  
      E.influenza virus F.human immunodeficiency virus  G.measles virus

     1)各々のウイルスは上のどのカテゴリーに入るか。
      A=    B=    C=    D=    E=    F=    G=
      2)DNA ウイルスはどれか。
     3)プラス一本鎖 RNA をゲノムとして持つものはどれか。
     4)マイナス一本鎖 RNA をゲノムとして持つものはどれか。
     5)2本鎖 RNA をゲノムとして持つものはどれか。
     6)分節型のゲノムを持つものはどれか。

 

1992年度細菌学期末試験

  1. 次に挙げるものは、皮膚あるいは粘膜の発疹(紅斑、丘疹など)を主徴とする疾患である。

    これらについて以下の問いに答えよ。
      水疱瘡(みずぼうそう)、麻疹(はしか)、尋常性疣贅(イボ)、
      しょう紅熱、伝染性紅斑(リンゴ病)、風疹(三日ばしか)、
      天然痘(痘瘡)

    (1)DNA ウイルスが原因となるものをすべて挙げよ。
    (2)RNA ウイルスが原因となるものをすべて挙げよ。
    (3)細菌が原因となるものが一つあるが、それはどれか。
      原因となる細菌の特徴(グラム染色性、形態、溶血性など)を述べよ。
      この細菌は他にどのような疾患の原因となるか、2つ記せ。
     
  2. インフルエンザウイルスに対する効果的なワクチンの作製が難しい原因の一つに、ウイルス表面の抗 原構造の変化が挙げられる。A 型インフルエンザウイルスを想定し以下の問いに答えよ。

    (1)インフルエンザウイルスの模式図を描け。エンベロープの有無、表在性蛋白質の種類とその性質、核酸の種類と極性および分節か非分節か、について説明を加えよ。
    (2)インフルエンザウイルスの抗原性が変化する機構を2つ挙げ、各々の機構につき説明せよ。
     
  3. 黄色ブドウ球菌について以下の問いに答えよ。
    (1)黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌を鑑別するにはどうするか。2つの検査法をあげ、各々の菌で得ら  れる所見を記せ。
    (2)MRSAとは何か、説明せよ。
    (3)黄色ブドウ球菌の産生するコアグラーゼには幾つかの方があり、コアグラーゼ対する抗体を用い I−VIIIの8型のコアグラーゼ型別が可能である。コアグラーゼ型別調査は黄色ブドウ球菌感染症の疫学に役立つが、その他にどのような方法が細菌感染症の疫学調査に役立てられているか(黄色ブドウ球菌に限る必要はない)。

 

1993年度細菌学試験

  1. 次の問題を読み問いに答えよ。

    -Bordetella pertussisが病原性を持つには蛋白毒素、hemolysin、蛋白分解酵素の3つの蛋白を産生する事が必要である。これらの蛋白は特別な培養条件でのみ作られ、かつ、ヒトへの感染にも必要とされる。この3つの蛋白をコードする遺伝子は菌の染色体上でそれぞれ別の場所に存在し、菌の普通のRNAポリメラーゼにより転写される。

    -regAとregBと呼ばれる2つの遺伝子が上の病原因子の発現調節に関与している。殆どのregAの変異(欠損、挿入、フレームシフト)株では、毒素、hemolysin、蛋白分解酵素とも出来なくなる。regAの稀な変異として、これら3つの蛋白が培養条件によらず常に発現されるようなものがある。regA蛋白は菌の細胞膜に存在する。

    -regBの変異によりregB蛋白が出来なくなると、どの病原因子も産生されない。regB蛋白は細胞質に存在し、菌の染色体の特定の場所に結合する事が知られている。(例えば、毒素遺伝子の蛋白質コード領域上流)。regB遺伝子産物は菌のRNAポリメラーゼにはくっつかない。

    問1.Bordetella pertussisの起こす病気とその症状を記せ。
     
    問2.Bordetella pertussisの細菌学的特徴(形、染色性)を記せ。
     
    問3.regAとregBの2つの遺伝子産物による遺伝子発現調節の機構として、各々どの様な可能性が考えられるか?その可能性を述べるにあたり、regAの希な変異株において常に3つの蛋白が発現される理由も説明する事(ラクトースオペロンの発現機構とグルコースの役割を思い出せ)。
     
    問4.点変異によりregAの機能が失われた菌株において、regBに変異が入る事によりこれら3つの蛋白質が発現する様になる場合がある。この場合のregA、regBそれぞれの変異がどの様なものか推定し、regA、regBの遺伝子産物である蛋白の機能の相互関係を推定せよ。問3の答えと整合性があること。
     
    問5.今精製されたRNAポリメラーゼ、regB蛋白、どのような遺伝子を含むか分かっている菌の染色体DNAの任意の断片、が手にはいるとして、regB蛋白の機能を知るにはどのような実験をデザインすればよいか?予測される結果も書くこと。
     
    問6.regA、regB両方の遺伝子を欠損したような菌株から1/1000,000,000の確率で毒素を作り続けるような変異株が分離される。このような変異菌ではhemolysinや蛋白分解酵素は作られない。これはどのような変異であろうか。可能性を記せ。

  2. 次に幾つかの臨床例を示し、それに関する質問が出ている。回答せよ。
     
    問1.23才の男性が3日間尿道から分泌物が出ると云うので来院した。ある女性との性的関係があり、同じ女性と前に性的関係にあった時にも同様の症状が出た経験がある。分泌物は白色であって、Neisseria gonorrhoeacは培養されなかった。
     (a)何による感染の可能性があるか?病原体名を挙げよ。
     (b)この女性に子供が出来た時、その病原体の児への感染の危険性はどうか?もしあれば、どのような感染症か?
     
    問2.6才の女児が1週間前から咽頭痛と発熱があると云う事で来院した。来院前に、近所の医者から経口アンピシリンを投与されていた。来院の前日には右足首が腫れ、心雑音が認められ、おそらく急性リューマチ熱であろうと診断された。
     (a)喉から菌を培養した場合、どのような病原菌が培養されれば診断が確定するか?その病原菌を羊赤血球で作成した血液寒天に塗った場合、どのような溶血が見られるか?この菌の同定にはバシトラシンディスクが役に立つ。どの様に役に立つか?
     (b)その菌をグラム染色し、顕微鏡で見ると、どんな色のどんな形の菌が見えると予想されるか?
      (以上実習を思い出す事)
     (c)この菌で起こる他の病気を2つ挙げよ。
     
    問3.3才の男児で、頭痛、発熱、し眠状態、おう吐を訴えていた。入院前2日間にわたる喉の痛み、咳などの上気道感染症状があり、入院時には体温39.7度でし眠状態であった。脳脊髄液の白血球数は21,000/μl(正常値5/μl以下)で、グラム染色で赤く染まる短めの桿菌が見えた。脳脊髄液のグルコース量は9mg/ml(正常値40−80mg/ml)、蛋白は1,322mg/ml(正常値15−45mg/ml)であった。
     (a)この患者の診断名は何か?
     (b)病原菌は何の可能性が強いか?次から1つ選んで○をつけよ。
       (1)Streptococcus agalactiae (2)Neisseria meningitidis
       (3)Haemophilus infuluenzae (4)Streptococcus pneumoniae
     (c)この病気を起こし易い他の病原菌を一つ挙げよ。

  3. 次の問いに答えよ。
     
    最近、病院感染が増えており、その結果、病院経費の15%位が病院感染を起こした患者への対応に費 やされているといわれている。

    問1.最近病院感染の増加した理由は何か?
     
    問2.病院感染に対する対策は何か?
     

  4. ポリオウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、パピローマウイルス、ロタウイルス、単純ヘルペスウイルス、HIV、パルボウイルス、C型肝炎ウイルスにつき、下の項目につき解答せよ。
     (1)遺伝子はRNAかDNAか
     (2)遺伝子は一本鎖か2本鎖か
     (3)遺伝子は直鎖状か環状か
     (4)ウイルスエンベロープの有無 
     (5)人に起こす病気の名前一つ
     

  5. WHO(世界保健機構)天然痘の撲滅に成功し、現在ポリオウイルスの撲滅に取り組んでいる。その次のターゲットは麻疹とされている。これらの疾患を撲滅可能と考える根拠は何か。また撲滅のための手段は何か。
     

  6. インフルエンザウイルスの構造模式図をかけ。エンベロープの有無、エンベロープ上に発現しているウイルス由来の蛋白質の名前(2つ)、ウイルスの核酸の種類(RNAかDNAか)・プラス1本鎖かマイナス1本鎖かそれとも2本鎖か・分節か非分節か、ウイルス粒子内にRNAポリメラーゼを持つか否か、の諸点を明記すること。

 

1994年度細菌学期末試験問題

  1. 原核細胞と真核細胞とでは遺伝子の発現様式にどの様な違いがあるか、述べよ(箇条書きで答える事)。

  2. M嬢(18歳)はある朝目が覚めたら左の膝が熱を持ち腫れて痛いのに気が付いた。歩行が困難なので友人に頼んで車で病院に連れて行ってもらった。待合室にいる間に更に右手がかたくなり、ペンをしっかり握って名前を書くのも困難になった。排尿時に局部が焼け付くように痛むのに気が付いていた。
     A君はM3の学生である。外来でM嬢の既往を調べるように指示された。過去1月に、彼女には3人のボーイフレンドがおり、1人は新顔であった事、関節の腫脹の病歴は無いが、淋病、梅毒の病歴のある事を知った。
     膝を圧すと痛みがあり、膝関節から吸引してみると膿性の関節液が取れた。子宮頸部分泌液を顕微鏡で見るとグラム陰性の球菌を含む細胞が多数見つかった。第3世代のセファロスポリンを投与し感染は一応治まった。
     
    次の問に答えよ。
    (1)M嬢はどういう菌に感染したのか?菌名を挙げよ。
     
    (2)この菌は尿道炎、子宮頸部炎に加え関節炎を起こしていた。女性に置いてはこの菌はそれ以外にも色々な臓器に感染を起こす。代表的なものを一つ挙げよ。
     
    (3)この患者は、このグラム陰性球菌以外にも他の性感染を起こす病原体に感染している可能性がある。それは、どのようなものか?
     
    (4)この病原菌の感染経路は何か?

  3. 細菌の一つの分類法として次のようなものがある。

    グラム陽性菌
    球菌

    (A)

    かん菌 酸素存在下で増殖せず胞子を作る菌

    (B)

    酸素の存在で増殖できる菌
    胞子を作る菌

    (C)

    胞子を作らない菌

    (D)

    グラム陰性菌
    球菌

    (E)

    かん菌 酸素があると死ぬ菌

    (F)

    酸素の存在下で増殖出来る菌
    主に腸管感染を起こすもの

    (G)

    主に日和見感染を起こすもの

    (H)

    培養に血液成分を必要とする菌

    (I)

    人畜共通伝染病であるもの

    (J)

    ビブリオ

    (K)

    抗酸菌

    (L)

    らせん菌

    (M)

    マイコプラズマ

    (N)

    リケッチア

    (O)

    クラミジア

    (P)

    (1)次に挙げる菌をこの分類法に従って分類せよ。 例:病原大腸菌(G)。

    髄膜炎菌

    ( )

    つつがむし病原体

    ( )

    レジオネラ

    ( )

    バクテロイデス ( ) インフルエンザ菌

    ( )

    赤痢菌

    ( )

    緑膿菌 ( ) 腸チフス菌

    ( )

    コレラ菌

    ( )

    淋菌 ( ) 梅毒の病原菌

    ( )

    オウム病

    ( )

    MRSA ( ) しょうこうの熱病原体

    ( )

    ジフテリア菌

    ( )

    ライム病病原体 ( ) セラチア菌

    ( )

    破傷風菌

    ( )

    リステリア菌 ( ) たんそ病

    ( )

    ボツリヌス菌

    ( )

    サルモネラ

    ( )

    ウエルシユ菌

    ( )

    肺炎球菌

    ( )

    結核菌

    ( )

    百日咳菌

    ( )

    非定型性肺炎

    ( )

    複数該当する場合もあるが、一つ選べば良い。どれにも該当しないと判断したらX印を付ける事。

     (2)次の言葉を簡単に説明せよ。
       
       1)日和見感染
       2)グラム染色
       3)胞子
       4)細胞壁
       5)外膜

 

1994年度細菌学追試試験

  1. 大腸菌に温度ショックを与えると(30度から45度に培養温度を変える)、直ちに一群の14 のペプチド の合成が新たに誘導される。これらは温度ショック後、同時に合成され始め同様な動態(kinetics)で合 成される。これらのペプチドには細胞を高温から守る働きがあり、HS(heat shock)タンパクと呼ばれる。
     温度ショックでどの HS タンパクも合成しない変異株が複数分離されているが、いずれも htpR という単一の遺伝子に変異がある事が分かった。しかし、コード領域上流に変異を持つ一部の htpR 変異株では、逆に温度ショックの有無に関わらず HS タンパクを発現するものがあった。
      14 の HS タンパクは独立したオペロンを形成している。最近、一つの HS タンパクの遺伝子がクローンされ、試験管中で RNA ポリメラーゼの鋳型として実験に供された。この遺伝子は温度ショックを受けた細胞の RNA ポリメラーゼでは転写されたが、温度ショックを受けない( 30 度で培養した)細胞の RNA ポリメラーゼでは転写されなかった。

     上の実験につき次の問いに答えよ。
     (1)htpR 遺伝子の機能は何か?可能性を述べよ。
     (2)HS タンパクを全く発現しない htpR 変異とはどのような変異が考えられるか。
     (3)温度ショックの有無に関わらず常に HS タンパクを発現する変異株とはどのような変異が考えられるか?
     (4)温度ショックにより一斉に誘導される 14 の HS タンパク遺伝子に共通する構造上の特徴として考えられる可能性を述べよ。
     (5)温度ショックを受けた細胞の RNA ポリメラーゼと温度ショックを受けない細胞の RNA ポリメラーゼの機能の違いは何によると推定されるか?

  2. M 君は友人が鼻水をダラダラたらしているのでウイルス感染を疑い、それをトリ赤血球の浮遊液に垂 らしてみた。すると、数分で赤血球は凝集した。数分すると凝集は溶け、それ以上ウイルスを加えてももう凝集は起こらなかった。次の問いに答えよ。ウイルスは RNA ウイルスとする。
     (1)最も可能性のあるウイルスは何か?
     (2)そのウイルスの遺伝子構造の特徴を列記せよ。
     (3)何故鼻水で血球が凝集したのか?
     (4)何故凝集が一度溶けると、ウイルスを再び加えても凝集が起こらないのか?

  3. 次の言葉を説明し、その例を挙げ、その対策につき考える処を述べよ。
     (1)輸入感染
     (2)日和見感染
     (3)母子感染

  4. ある日、A 君の飼っていたマウスがひどい下痢で死んだ。A 君はマウスの下痢便からウイルス抽出物を作り、ヒトとマウスの細胞にかけてやった。ヒトの細胞は死ななかったが、マウスの細胞は死んだ。そこで、そのマウスの細胞から RNA を抽出し、核酸が細胞にうまく入る条件で細胞にかけてやるとマウ スの細胞もヒトの細胞も死んだ。
     
    次の問いに答えよ。
    (1)マウスの感染したウイルスはどの様なウイルスと考えられるか。
    (2)その理由は?
    (3)そのようなウイルスとして知っているウイルス名を一つ挙げよ。
    (4)どうして、ウイルスとして感染させるとヒトの細胞に感染しなかったのか。
      可能性を挙げよ。
     

  5. 大腸菌に T4 ファージが感染すると4種類の mRNA が順次発現する。

 

a 感染時にクロランフエニコルを加えると、最初期 mRNA(lEmRNA)のみが発現する。
b rifampicin 感受性の野生型大腸菌では、感染後何時 rifampicin を加えてもファージの mRNA 合成は抑えられる。
c rifampicin 耐性変異大腸菌では、感染後何時 rifampicin を加えてもファージの mRNA 合成やファージ増殖は抑えられない。
d rho 因子を欠く大腸菌では、感染時にクロランフェニコルを加えても IEmRNA と初期 mRNA(EmRNA)の合成が起こる。
e 感染中期の細胞から得られた精製 RNA ポリメラーゼは、in vitro 系で中期 mRNA (MmRNA)だけを転写する。
f 感染後期の細胞から得られた精製 RNA ポリメラーゼは、in vitro 系で後期 mRNA(LmRNA)のみを転写する。
g 遺伝子 #11 欠損ファージは IEmRNA しか作らない。
h 遺伝子 #22 欠損ファージは IEmRNA と EmRNA しか作らない。
i 遺伝子 #55 欠損ファージは IEmRNA、EmRNA、MmRNA しか作らない。
j 遺伝子 #44 欠損ファージはすべての mRNA を作るが、IEmRNA と EmRNA が感染サイクル中作り続けられるのでファージの生産量が減る。

次の問いに答えよ。

(1)野性株大腸菌にクロランフェニコルを加えると、何故 IEmRNA だけが出来て、他の mRNA が出来ないのか?

(2)rho 因子を欠く変異株ではどうして EmRNA も出来るようになるのか?遺伝子 #11 はどういう酵素をコードしていると考えられるか?

(3)rifampicin を使った実験からどのような結論が導き出せるか?

(4)大腸菌の遺伝子、ファージの IEmRNA をコードする遺伝子、ファージの EmRNA をコードする遺伝子において、これらを認識する RNA ポリメラーゼやシグマ因子は異なるか、同一か?その理由を述べよ。

(5)大腸菌の遺伝子、ファージの MmRNA をコードする遺伝子、LmRNA をコードする遺伝子に関して、5−4 と同じ質問をした場合どう答えるか?理由も記せ。

(6)遺伝子 #22 と #55 の機能は何か?

(7)遺伝子 #44 の機能は何か?どうして #44 の欠損はファージ増殖の低下をもたらすのか?

(8)もしも宿主大腸菌のシグマ因子が温度感受性であったとしたら、野性型 T4 ファージを感染した後温度を以下の各時点で上げるとどの様な結果が予想されるか?
  a)感染時
  b)感染中期
  c)感染後期

(9) (8)の実験で #44 欠損ファージを使用した場合どのような事が予想されるか?

 

1995年度細菌学期末試験

  1. ある旅行者下痢症患者からエンテロトキシンを出す大腸菌 A が分離された。この大腸菌は(1)数種のプラスミドを持っており、且つ(2)テトラサイクリン、アンピシリン、ストレプトマイシンに耐性であった。
     
     観察1:
     菌 A を適当な別の菌 B と混ぜる接合伝達実験を行うと、次のような事が観察された。(1)菌 A から菌Bへのテトラサイクリン耐性遺伝子の伝達頻度は極めて低く、菌 A 一匹当たりの菌 B への伝達頻度は 10−4 の頻度であった。(2)テトラサイクリン耐性を獲得した菌Bは、50,000 塩基の大きさのプラスミドを獲得していた。(3)このようにしてテトラサイクリン耐性を獲得した菌 B は、テトラサイクリン耐性を100% の効率で次の適当な菌に伝達した。
     観察2:
     大腸菌 A と菌 B との接合実験で非常にまれに(10−8 程度の頻度で)アンピシリン耐性を獲得した菌 B が得られ、総てテトラサイクリン耐性であった。このような菌は 50,000 塩基サイズのプラスミドの他に25,000 塩基サイズのプラスミドを持っていた。このような菌から他の菌へのテトラサイクリン及びアンピシリンの伝達頻度はそれぞれ 10−4 と 10−8 であった。この他に、55,000 塩基のプラスミドをたった一つ持つ菌も得られたが、このような菌はテトラサイクリン耐性もアンピシリン耐性も 100% の効率で次の菌に伝達出来た。
     観察3:
     動物モデル実験で、次の事が分かった。(1)大腸菌 A、並びに、50,000 塩基サイズ及び 25,000 塩基サイズの2つのプラスミドを獲得しテトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を獲得した菌 B は、エンテロトキシンを出し、動物に下痢を起こさせた。(2)テトラサイクリン耐性のみを獲得したアンピシリン感受性の菌は殆ど下痢を起こさなかった。しかし、非常にまれに(0.01%)エンテロトキシンを出すものがあった。このような菌は 60,000 塩基のプラスミドを持っていた。
     観察4:
     50,000 塩基サイズのプラスミドと 25,000 塩基サイズのプラスミドの間には相同性(homology)がない。しかし、55,000 塩基サイズのプラスミドと 60,000 塩基サイズのプラスミドは、25,000 塩基サイズのプラスミドと相同性のある領域を持っている事が分かった。
     
    次の問いに答えよ。
    (1)プラスミドを定義せよ。
     
    (2)テトラサイクリン、アンピシリン、ストレプトマイシン、それぞれの抗菌作用の標的は何か?
     
    (3)菌 A から菌 B へのテトラサイクリン接合伝達頻度が非常に低かったのに、一旦、耐性が菌 B に入ると接合伝達頻度が高くなるのは(観察1)、どういう事が考えられるか?(接合伝達は種々の調節を受け、例えば、F 因子の伝達は、R 因子の導入により後者がトランスに供給する fin0 遺伝子産物により抑制される事を思い出す事)
     
    (4)観察 2に於いて、非常な低頻度でアンピシリン耐性が伝達され、且つ、アンピシリン耐性を獲得した菌は総てテトラサイクリン耐性である。これは、どのように考えれば良いであろうか?
     
     これについては、伝達性の無いプラスミドが伝達性のプラスミドとトランスポソン配列を介した組替えにより co-integrate の形となって伝達され、伝達の後2つのプラスミドが分かれたと考えると良い、と云う。これを、図で説明せよ。どのサイズのプラスミドにどの耐性遺伝子が乗っているのか、どのサイズのプラスミドに伝達性があり、どのプラスミドに伝達性が無いのか明示する事。

    (5)観察 2 において、観察1とは異なり、アンピシリン耐性テトラサイクリン耐性の菌からのテトラサイクリンの伝達頻度は、10−4 と低い。これをどう説明すればよいか?(ヒント:3 に同じ)

    (6)観察 2 において、55,000 塩基のプラスミドのみを持つテトラサイクリン、アンピシリン耐性菌が見ら れている。このような菌は 100% の頻度で両方の耐性を伝達出来る。このプラスミドはどのようにして出来たのか、又、その構造はどの様になっているのか、を記せ(他の関係あるプラスミドと関係がハッキリ分かるように図説する事)。又、この菌は動物に下痢を起こすかどうか予想せよ。

    (7)エンテロトキシン遺伝子は、観察 2 のテトラサイクリン耐性アンピシリン耐性の2つのプラスミドを持つ菌では、どのプラスミドに乗っていたと考えられるか。観察 3 のテトラサイクリン耐性アンピシリン感受性でありながら下痢を起こす菌のプラスミド上にはエンテロトキシン遺伝子はどの様な機構で移ったと考えられるか?
     
    (8)2つの DNA を denature し混ぜると、相同性の部分がくっつき、いわゆる heteroduplex を作る。25,000 塩基サイズのプラスミド DNA と、55,000 塩基サイズ或いは 60,000 塩基サイズのプラスミドとの heteroduplex を作った時に予想される構造を描け。相同性部分の遺伝子の名前とサイズを明記する事。どの DNA がどのプラスミド由来かも忘れずに明記せよ。
     

  2. 2歳の男児が、2週間前から上気道感染があり、4日前から食欲が無くぐったりしていると云う事で入院した。3日前に救急外来に来ており、その時は体温 39.9 度で、X 線では肺に陰影が無く、咽頭炎があり、両側の顎下リンパ腺の腫脹が認められた。咽頭培養を行ったが、その後、A 群連鎖球菌は陰性である事が判明した。救急でペニシリンを処方したが、児の病状は悪化し、呼吸困難となった。入院時体温は 38.9 度で、咽頭後壁に黄色味を帯びた厚い膜状のものが見え、剥がすと出血した。この男児にはワクチン接種が全くされていなかった。

    次の問いに答えよ。
     
    (1)グラム陽性菌とグラム陰性菌の構造上の違いを述べ、下に列記した菌をいずれかに分類せよ。
     構造の違い(図示する事)
     
    (2)分類せよ。グラム陽性菌には+、陰性菌には−の印を付ける事。
     グラム染色で分類出来ないものは ×を付ける事。細菌でないものはどれか(#を付ける事)。 

    ブドウ球菌
    連鎖球菌
    髄膜炎菌
    赤痢菌
    ペスト菌
    ボツリヌス菌
    緑膿菌
    淋菌
    破傷風菌
    クラブシエラ菌
    アスペルギルス
    リステリア菌
    レジオネラ菌
    大腸菌
    ジフテリア菌
    コレラ菌
    百日咳菌
    結核菌
    スピロヘータ
    カンジダ
    サルモネラ
    ボレリア

    (3)この男児の感染は上の菌の中のどれである事が最も可能性が高いか?

    (4)この菌は血液に入るか?もしそうでなければ、どのような機構で病気を起こすか?

    (5)この病気の予防法は?

    (6)治療法は何か?

 

1995年度細菌学期末試験追試

 

  1. T 大学病院の新生児室で Staphylococcus の感染が起こった。その部屋の4人の赤ん坊全て(2人は包茎手術部位から、2人はヘソの緒から)coagulase 陽性の Staphylococcus が分離された。感染源は不明であったが、感染対策委員会は危険性を察知し、その新生児室に関係する全ての医療スタッフからの、coagulase 陽性 Staphylococcus の分離を行った。スタッフの内、2人看護婦から問題の菌が分離された。この分離菌はペニシリン、テトラサイクリン、エリスロマイシンに耐性であり、耐性の程度も同じであった。
      委員会は、新生児ユニット全体を検査する必要を認め、6人の医師、8人の看護婦、6人の医療補助 員、3人の清掃員、全部で23人につき菌の分離検査を行った。又、12人の他の新生児についても同様な検査を行った。coagulase 陽性 Staphylococcus 分離株についてはファージタイピングを行った。その結果は以下の通りであった。

    医療スタッフ

    新生児

    coagulase陽性Staphylococcus

    8名

    2名

    Streptococcus pyogenes

    Streptococcus pneumoniae

    α-hemolytic streptococci

    23

    Neisseria meningitidis

     coagulase 陽性 Staphylococcus のファージタイピングの結果は次の通りである

         ファージタイプ
    医師A
    医師B
    看護婦A
    看護婦B
    看護婦C
    看護婦D
    清掃婦A
    補助員A
    新生児A
    新生児B
    71
    71 88
    83 84 88
    55 71
    55 71
    71
    タイピング不能
    71 88
    83 84 88
    83 84 88

    なお初めの 2 名の感染新生児からの菌のファージタイプも 83、84、88 であった。

    次の問に答えよ。
    (1)coagulase テストとはどんなテストか。
     
    (2)coagulase 陽性 Staphylococcus とは何か?種名を日本語とラテン語で書く事。
      又、coagulase 陰性 Staphylococcus とは何か?同様に答える事。
     
    (3)Staphylococcus の coagulase 陽性菌と陰性菌それぞれをマンニット食塩寒天に培養するとそれぞれどん なコロニーを作るか(以上実習を思い出す事)。
     
    (4)Streptococcus pyogenes の起こす病気の主なものを3つ挙げよ。
     
    (5)α-hemolytic Streptococci を血液寒天に塗布すると、どのようなコロニーを作るか。Streptococcus pyogenes は同様に培養すると、どのようなコロニーを作るか。
     
    (6)ペニシリンが菌に作用する時の、標的物質は何か。
     
    (7)菌の薬剤感受性を調べる簡単な方法がある。それはどのようなものか。
     
    (8)ペニシリン結合蛋白の局在部位と機能を述べよ。
     
    (9)ベータラクタマーゼとは何か。
     
    (10)他の2人の新生児から coagulase 陽性 Staphylococcus が分離されているが、これらの子供達は直ちに病気であるといってよいか?何らかの対策を立てるべきか、どうか?
     
    (11)ファージタイピングとは何か?ファージタイピングの結果からどういう結論が出せるか。その結果に基づいてどのような対策を立てるか。
     
    (12)1人の医療スタッフからは、coagulase 陽性 Staphylococcus、Streptococcus pneumoniae、Neisseria meningitidis が分離された。いづれも病原菌であるのに、どうしてこの医療スタッフは元気なのだろうか?
     
    (13)上の分離菌の中でグラム陰性菌はどれか。
     

  2. レストランをやっている A 君の処に、ある日、保健所から調査官がやって来た。どうも、町で肝炎患者が急に発生しており、その中の何人かは、A 君のレストランの常客であると云う。そこで、A 君の処の従業員も肝炎の検査を受ける事になった。

    次の問いに答えよ。
    (1)肝炎を起こすウイルスには A、B、C、D、E などのタイプがある。このケースではどの肝炎ウイルスによる可能性が高いか?
     
    (2)(1)で答えた以外のタイプの肝炎ウイルスはどのような経路で感染するか?
     
    (3)現在、ワクチンによる予防が可能なウイルスはどのタイプか?
     
    (4)母子感染を起こす確率の高いウイルスはどのタイプか?
     
    (5)環状一本鎖 RNA をゲノムとするウイルスはどのタイプか?

  3. 君が東京大学附属病院の院内感染対策委員会メンバーであったとする。
     今、ブドウ球菌の院内感染が広がっているらしい、と云う指摘があったとする。

    次の問いに答えよ。
    (1)感染源を特定する為にはどのような計画を立て、調査する必要があるか?中央検査部の細菌検査室の役割についても述べよ。
     
    (2)この院内感染の広がりを防ぐには、どのような方策を立てる必要があるか?
     
    (3)院内感染を起こす菌の一般的特徴は何か?その様な菌の例を他に2つ挙げよ。
     

  4. 性感染症(STD)について、次の問いに答えよ。
    (1)淋病の病原体の細菌学的特徴を述べよ。(形態、グラム染色性、など)
     
    (2)淋病はペニシリンの発見にも関わらず減少しない。その理由はなぜか?
     
    (3)STD を起こす微生物の多くは、母子感染を起こす。次の微生物につき児にどの様な感染を起こすか記せ。
     a)HIV b)クラミジア c)Treponema pallidum d)B 型肝炎ウイルス e)Neisseria gonorrhoeae

 

1997年度細菌学期末試験問題

  1. 次の文章を読み、以下の問題に答えよ。

    (1)大腸菌は環境の変化に応じ種々の遺伝子の発現を調節している。浸透圧変化により外膜の浸透性が変化するのはその良い例である。浸透性は外膜にあるポーリンと云う蛋白により決まっている。
    (2)環境の浸透圧が低い時には、OmpF と呼ばれるポーリンが発現し、浸透圧が高くなると OmpC と呼ばれるポーリンが発現する。いずれのポーリン蛋白も外膜を貫通し真ん中に孔があるような構造をしている。
    (3)OmpF 蛋白と OmpC 蛋白はそれぞれ ompF 遺伝子、ompC 遺伝子によりコードされておりそれぞれの蛋白の発現は転写レベルで調節されている。つまり、低浸透圧下では ompF の mRNA の転写が起こり、ompC の転写は抑制される。逆に高浸透圧下では ompF の転写は抑制され、ompC の転写が起こる。
    (4)これらの OmpF 蛋白と OmpC 蛋白の発現は、envZ 遺伝子と ompR 遺伝子の変異により影響を受ける。EnvZ 蛋白の発現が無くなると ompF はどのような条件下でも発現し、ompC は全く発現しなくなる。OmpR 蛋白の発現が無くなっても、同様に ompF はどのような条件下でも発現するようになるが、ompC  は全く発現しなくなる。
    (5) しかし、或る点変異をompRに導入すると、構造の変わった OmpR 蛋白(OmpR*)が出来て、このようなOmpR* が発現している大腸菌では、ompC がいつも発現し ompF は全く発現しなくなる(つまりOmpC蛋白だけが外膜に存在するようになる)。
    (6) EnvZ 蛋白は膜蛋白で、細胞膜にのみ存在する。大腸菌のいる培養液の浸透圧が高まるとEnvZ蛋白は OmpR 蛋白を燐酸化する。一方 OmpR 蛋白は細胞質にのみ存在し、燐酸化されるとompF および ompC 遺伝子それぞれのプロモーターのすぐ上流に結合する事が知られている。

     問1.上の記載を整理する為に次のboxを正しく埋めよ。

    浸透圧

    OmpR 蛋白燐酸化

    OmpF 発現

    OmpC 発現

    (有り、無し、で答える事)

     問2.浸透圧の高い場合と低い場合に分け、OmpR 蛋白が OmpF 遺伝子に ompC 遺伝子の発現をどのようなメカニズムで調節しているか述べよ。何故、EnvZ 遺伝子、OmpR 遺伝子のいずれの欠損によっても、OmpFが常に発現しOmpCは、発現しなくなるのか、も同時に説明せよ。

     問3.点変異 OmpR* の導入により、ompC は常に発現し ompF は全く発現しなくなる。OmpR* の変異の性質を推定し、説明せよ。

     問4.OmpR* 変異を持つ大腸菌に envZ 遺伝子の欠損変異を導入するとどのような事が起こると考えられるか。

     問5.EnvZ、OmpR、OmpF、OmpC、いずれの遺伝子も正常な大腸菌に OmpR* を十分発現するプラスミドを導入するとどのような表現型になるか、推定せよ。

  2. グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞表面構造の模式図を描け。両者の違いがよく分かるように説明する事。

  3. 平成8年には大腸菌 O157:H7によるいわゆる食中毒が日本で多発した。特に小中学校の給食が原因となるものが多かった。今後、この様な事件を防ぐ為にはどの様な方策をとればよいか、行政的な見地も含め論ぜよ。

  4. 病院に於ける感染につき次の問いに答えよ。

     (1)感染症の診断には臨床細菌検査室の機能は欠かす事が出来ない。又、患者が死亡した場合の病理診断は、臨床診断が正しかったか否かを決める重要な手段である。このような現場で検査に携わる者に結核菌感染が少なくないと云う。その原因について論じ、対策法を述べよ。

     (2)臨床現場の医師看護婦で感染の起こる可能性の高い病原体を上げ、その感染防止対策を述べよ。

  5. 9カ月の男の赤ちゃんが午睡の後むずがりだした。熱があるので母親は子どもに水と解熱剤を与えた。子供は夜中から朝まで機嫌が悪かったが、昼頃になり熱が39度Cに上がり、食べ物を受け付けず、嘔吐をし、起き上がれなくなった。小児科医を受診し、腰椎穿針をされた。脳脊髄液をグラム染色した処赤く染まる細長い細菌が観察された。次の問いに答えよ。

    1. 次の細菌の中で原因菌として可能性のあるものに丸を付けよ。
          表皮ブドウ球菌
          溶血性連鎖球菌
          大腸菌
          髄膜炎菌
          ヘモフィルス菌
          結核菌
          リステリア菌

    2. 脳脊髄液から分離した菌は厚い夾膜を持っていた。この子供の年齢を考慮し最も可能性の高い菌はどれか。その理由も述べよ。

    3. 上に挙げた7種類の菌の内、グラム陰性の球菌はどれか。

    4. 上に挙げた7種類の菌の内、主に食品から感染し、免疫力の低下した人によく髄膜炎を起こす菌はどれか。そのグラム染色での特徴も述べよ。

 

1996年度細菌学追試(抜粋)

  1. 平成8年には日本の方々で大腸菌 O157:H7 の流行が起こった。特に学校給食が原因であるものが多かった。次の問に答えよ。

     問1:O157 とは菌のどの性質を反映するものか。H7 とは菌のどの性質を反映するものか。

     問2:再発防止策を箇条書きにせよ。

  2. 24時間風呂でレジオネラ菌が増殖しており危険だ、と云う記事が新聞や週刊誌を賑わした。

     問1:レジオネラ菌の形態、染色性、外膜の有無、生息場所など特徴的な性質を述べよ。

     問2:レジオネラ菌はどのような人にどのような病気をひきおこすか。

     問3:この報道に対しての各人の考える処を述べよ。

  3. ウイルスと細菌の違いを増殖と云う観点から論ぜよ。

 

1997年度細菌学期末試験

  1. 遺伝子組み替え技術によりトランスポゾン Tn10 にラクトースオペロンが Insertion Sequene (IS) の下流に来るように挿入した。即ち、次の様な構造のトランスポゾンを作った。

       IS−lacZ−lacY-lacA-------tet−IS

    この様にして出来たラクトースオペロンには翻訳開始シグナルはあるが、ラクトースオペロン自体のプロモーターオペレーターは持っていない。この様にして出来たトランスポゾンのトランスポジション活性は完全に保たれている。
    このトランスポゾン Tn10−lac をラクトースオペロンを欠損する大腸菌に導入すると、染色体の色々な処に挿入される。多くの場合はベータガラクトシダーゼの発現は見られない。しかし、ベータガラクトシダーゼを発現する菌も偶に見つかる。この中には、紫外線など DNA 損傷を起こすような条件に曝した時にしかベータガラクトシダーゼを発現しない菌もある。挿入の結果DNA損傷を修復出来なくなったような菌も見つかる。

     問1.トランスポゾンとは何か。

     問2.このトランスポゾンを大腸菌に導入し染色体に挿入させた時、大部分の菌はベータガラクトシダーゼを発現しないのに、偶に発現する菌があるのは何故か。

     問3.偶に見つかるベータガラクトシダーゼを発現する菌にラクトースを与えるとベータガラクトシダーゼの発現は変化するか、変化しないか。その理由を述べよ。

     問4.紫外線でベータガラクトシダーゼの転写が誘導される菌においては、このトランスポゾンはどのような部位に挿入されていると考えられるか。

     問5.紫外線でベータガラクトシダーゼが誘導される菌から、紫外線照射しなくても常にベータガラクトシダーゼを発現している変異菌を得た。このような菌では、lexA という遺伝子座に変異のある事が分かった。このような菌は DNA 損傷により誘導される1群の酵素を高レベルに発現していた。このような菌にはラムダファージが溶原化する事は困難である。この観察から正常の大腸菌でのlexAのそもそもの機能はどういうものか推定せよ。

     問6.問5でラムダファージが溶原化しにくいのは何故か。推測せよ。

     問7.上の紫外線照射によりベータガラクトシダーゼが誘導されるような Tn10-lac を導入した菌の中で、lexA 遺伝子は正常な事がはっきり分かっている菌がある。これを変異原物質で処理し、紫外線照射してもベータガラクトシダーゼを発現しない変異菌を得た。このような菌はいずれも recA 遺伝子を発現していなかった。ここから推定される recA 遺伝子産物の機能は何か。

     問8.recA 遺伝子のコードする蛋白の機能として、問7の回答以外で重要なものはなにか。

     問9.挿入の結果 DNA 損傷の修復が出来なくなった菌では、トランスポゾンはどのような部位に挿入されていると考えられるか。

  2. 15才の男子が姉に連れられて外来に来た。丸1日前から陰茎の先から膿のようなものが出て下着が汚れると云う事である。尿自体は透明であり、一般尿培養試験では菌は陰性であった。しかし、尿沈査をグラム染色し顕微鏡で観察すると、グラム陰性の球菌が中に多数存在する白血球細胞が観察された。問い正すとここ6ヶ月の間に5、6人の女性と性交渉をもっていた事が分かった。この男子の説明によると、彼の相手は病気を持っている風はなかったと云う。抗生物質を処方し、続けて来院するよう説明したが、二度と病院に来なかった。この臨床例につき、次の問いに答えよ。

     問1.グラム染色の結果からこの患者に病気を起こした菌は何と考えられるか。

     問2.この患者は、彼の性交渉相手は病気を持っている様子はなかったと云っている。何故か。

     問3.女性がこの病原体に感染すると重症になることがあると云われている。それはどのような病気か。

     問4.この患者には、顕微鏡で観察された細菌の他どのような病原体の感染があり得るか。

  3. 55才の男性で、2ヶ月間発熱、寝汗、痰を伴う咳が続き、体重が11キロ減少した。麻薬や同性愛は否定しているが、複数の相手との性交渉があり、毎日一升酒を飲み、2年前には暴行傷害で刑務所に入ったこともある。診察すると頚部および腋下リンパ節の腫脹があり、体温は39度あった。レントゲン写真により気管両側のリンパ腺腫脹と肺両側に陰影が見られた。血液検査により HIV の感染が証明され、CD4カウントが減少していた。痰には抗酸菌が検出された。

     問1.抗酸菌の染色は考案した人の名前のついた方法がある。その方法は何と云うか。その染色をすると  抗酸菌は何色にどのような形に染まって見えるか。

     問2.この患者に感染している細菌は何か。この菌以外にいくつかの抗酸菌がある。一つだけ名前を挙げよ。

     問3.HIV感染とこの細菌の感染は関係があるか否か。関係があるとすればその理由を述べよ。

     問4.この患者の治療における留意点を述べよ。

  4. コレラ、赤痢、腸チフスにつき、お互いの違いがはっきりわかるように、それぞれの発病機構を3行以内で説明せよ。

  5. HIV はレトロウイルスである。

     問1.レトロウイルスの複製サイクルを4行以内で説明せよ。

     問2.細胞に影響なくレトロウイルスの複製を抑えるには、複製サイクルのどの部分に関与する酵素を抑える薬を開発すればよいか。

     問3.米国のクリントン大統領はHIVに対するワクチン開発が必要である事を認識し、この研究を推進する事を言明している。
      どのようなワクチンが可能か、自由に述べよ。又、それぞれの開発上の問題点も指摘せよ。

 

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