第24章 真菌 Fungi

 カビ、きのこの仲間である。フランス語では、カビもきのこもシヤンピニオンchampinionと云う。真核生物であるから、我々人間に近い。従って、
(1) 真菌と人とでは、ミトコンドリアなど細胞内小器官や、代謝に関わる道具立ては殆ど同じである。従って、真菌細胞に影響を与える薬物は、殆どの場合、人の細胞にも同じ様な影響を及ぼす。

(2) 有性生殖をする。有性生殖の存在が明かでない真菌が沢山あり、そのようなカビをFungi imperfecti(不完全真菌)とよんでいる。しかし、次第にこのようなカビにも有性生殖サイクルが見つかって来ている。極端な例では、オスとメスがアメリカとヨーロッパに別々に居たというのがある。

 カビは有性生殖をする最も簡単で扱い易い真核細胞なので、真核細胞の遺伝学の発展には酵母の遺伝学の貢献が大きい。殆どが土壌中に存在し、生態系の中では種々の物質を壊し土に帰すのに大きな役割をしている。

 基本的には好気性で、概して25度-30度の低温を好む。

 2つの形態を取る。菌糸型(hyphae)と酵母型(yeast)である。

 菌糸型では、細胞が長く糸状(filamentous)に連なっている。そのような形の菌を糸状菌(mold)と呼ぶ。餅の上のカビを観察すると分かるように中心から菌糸を伸ばした集落を作る。菌糸を作る細胞の核の間に仕切は概ね不完全で細胞質がつながっている(図24-(1))。

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 菌糸は機能的に先端から、先端成長ゾーン(Apical growth zone)、吸収ゾーン(Absorption zone)、貯蔵ゾーン(Storage zone)、老化ゾーン(Senescense zone)に分かれる。吸収ゾーンでは、プロトン(H)がエネルギー依存性に細胞外へ押し出され、1000倍(つまりpH3)の濃度差が出来る。この濃度差を利用し、プロトンとのsymportにより糖などの栄養がキャリアー蛋白(permease)を介して取り込まれる。Kも同様に取り込まれ菌糸内部浸透圧を上げ、菌糸が伸びた状態にすることを助ける。菌糸の先端には小胞体(vesicle)の集合が見られ、小胞体は細胞膜 と融合し内部の酵素を放出し廻りの物質が吸収されやすいようにする。その様に消化された物質は吸収ゾーンで菌に取り込まれる事になる。廻りに栄養があり、代謝が高まると小胞体がどんどん増え、菌糸の側面に溜まり、ここから分枝が出てくる(図24-(1))。

 酵母型では、細胞がバラバラで存在し、円形ないし楕円をしている。出芽で増えるもの(例えばSaccharomyces cerevisiae)と、2分裂のもの(例えばSchizosaccharomyces pombe)とがある。出芽で増える場合は元のが母細胞で、出芽で出たのが娘細胞である。出芽の後には母細胞に斑痕ができるので何回出芽したかがわかる。

 菌糸形と酵母形両方を取り得る菌がおり、二相(形)性(dimorphism)菌と云う。何れの形をとるかは成育条件で決る。多くの病原真菌はこのタイプである(図24-(2))。一般に、酵母形は発酵をし、菌糸形は呼吸を行う。

図24-(2)

 HistoplasmosisやBlastomycosisなど多くの全身感染を起こす真菌は、感染体内では酵母形を取り、土壌などの環境中では菌糸形である。Candidaは、例外で、この関係が逆になり、感染体内で菌糸形をとる。しかし、病原真菌でもAspergillusは常に菌糸形であり、 Crytpococcusは常に酵母形である。Cryptococcusは髄膜炎を起こすことが多い。こ の感染が疑われたら、濁った随液を墨汁と混ぜ、スライドグラスに乗せカバーグラスをかけて油浸で顕微鏡観察するとよい。多糖体のカプセルに包まれた菌体が見える。

24−1:真菌症

 真菌の感染症を真菌症(mycosis)と云う。体のどの部分が犯されるかで分類出来る。即ち、

 表在真菌症(superficial mycosis):皮膚表層感染で皮膚がつるつるになる。黒色輪癬(tinea nigra)、なまず(tinea versicolor)、頭髪の砂毛(piedra)等でる。

 皮膚真菌症(cutaneous mycosis):皮膚のより深部に感染が起こる場合で、頭部白癬、足部白癬、躯幹白癬などがその例である。
Mycrosporum、Trichophyton、或は、Epidermophytonがこの感染を起こす。たむしが輪状になるのは感染が感染部位から放射状に広がる為で、周りの盛り上がった所に菌がいる。中央部には菌はおらず菌への感染に抵抗性を示す。水虫はTrichophyton mentagrophytesの感染によるものである。頭部白癬(しらくも)は 5-10歳までで、あとは水虫が多くなる。皮膚の脂肪酸の構成が変化する為と考えられている。

 皮下真菌症(subcutaneous mycosis):環境中の真菌が特別な条件下で皮下に感染を起こす。スポロトリコーシスSporotrichosisはバラの刺などから感染し園芸家の職業病の一つである。抗真菌剤に反応しない場合が多く、外科切除が必要である。

 全身真菌症(systemic mycosis):健康人でも一次感染を起こす真菌症がある。Histoplasma capsulatum 、Blastomyces dermatidis、 Coccidioidomycosis immitis 、Paracoccidioides brasiliensis 、などがある。呼吸器感染が多い。感染巣の石灰化が起こったりして臨床経過は結核に似た所がある。ヒストプラズマ症は米国オハイオ、ミシシッピ、コクチジオイドミコーシスCoccidioidomycosisは北米南西部から南米と云うように流行地がある。我が国では「輸入真菌病」として問題提起されている。

 免疫力の落ちた人のみで感染を起こす日和見感染真菌としては、Candida albicans 、Cryptococcus neoformans 、Aspergillus fumigatus 、などがある。これらの真菌の犯しやすい部位は概ね次ぎのようになっている。

Cryptococcus 肺、中枢神経系、腎臓、骨
Candida  粘膜、腸管、血液など
Aspergillus 肺など
Zygomycosis 糖尿病に多く、血管、眼、中枢神経系、鼻、腔、肺

 Cryptococcusはハトの糞に多く、病室の軒にハトが巣くったりしないようにする注意が必要である。
 エイズ患者で肺炎を起こすPneumocystis cariniは、リボソームRNAの遺伝子配列からCandidaやPenicilliumの属するAscomycotaの仲間である事という。しかし、最近ではむしろ原虫に近いという説もある。

24−2:真菌の感染と治療

 多くは、誤って大量に吸引したり、傷口から感染が起こる。Histoplasma capsulatumはコウモリやトリのフンに汚染した土壌に多い。Cryptocuccus neoformansはハトのフンに多く含まれる。Sporothrix schenkiiはバラの刺に多い。また、ある種の真菌は特定の場所にしか存在しない。たとえば、Paracoccidiodes brasiliensisは中南米にしかいない。

 真菌は毒素を分泌しないので、菌の増殖による組織の侵食と炎症反応により病変が起こる。

 真菌感染に対する生体防御反応としては、非特異的炎症反応が最も重要で、好中球による食菌作用が主役を果たす。従って好中球機能の落ちている慢性肉芽腫症chronic granulomatous diseaseや ミエロペルオキシダーゼ欠損症myeloperoxidase deficiencyでは真菌感染の頻度が高くなる。エイズのように細胞免疫力が低下すると真菌に対する抵抗力が低下し、カンジダ症、クリプトコッカス症を頻発する。

 真菌治療薬には、真菌特有の細胞膜を標的とするPolyeneとAzoleがある。PolyeneのアンホテリシンBやニスタチンは膜のステロールに結合し、AzoleであるClotrimazole、 Miconazole、 Ketoconazole、Fluconazole、 Itraconazoleはエルゴステロールの生合成を抑える。そのほか、核酸合成を阻害する5-fluorocytosine(5FU)やマイクロチュブルの会合を抑えるGriseofulvinがある。Griseofulvinは局所投与のみ可能である。

 

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