学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.95-102


[特集1〔Overviewセミナー〕]

15.粒子としてのHIVの成り立ちとふるまい
―包装・出芽から吸着・侵入まで―

櫻 木 淳 一

要旨:  多くのウイルスと同じように,HIVも感染サイクルの中でウイルス粒子(ビリオン)の形になることで感染を拡大し,時に標的細胞を変えて渡り歩き,宿主の免疫系を凌駕して繁栄している.こうしたことからビリオンとなり,細胞外に存在するときのHIVについての知見を得ていくことは細胞内でのHIVの動向を知ろうとするのと同様に重要なことである.
 HIVのビリオンが初めてとらえられたのは1983年のことであり,当初それは(おそらく思いこみと出版を急いだために)「典型的なC型RNA腫瘍ウイルスの形状」であると報告されたが1),以後の報告によって,「VISNAウイルスに酷似した形状」となり,レンチウイルスであることが判明した14).HIVの粒子は直径約120nmの球状で,ウイルス糖タンパクEnv(gp120,gp41)が植え付けられた宿主細胞由来の脂質二重膜からなるエンベロープ,エンベロープを裏打ちするウイルス蛋白群Gagの一つであるマトリックス(MA),その内側にやはりGagの1つ,カプシド(CA)蛋白からなる円錐台状をしたコアが存在する.コアの内側にヌクレオカプシド蛋白(NC)に取り巻かれて二量体化しているポジティブ一本鎖RNAのウイルスゲノムが存在する.ウイルス酵素であるプロテアーゼ(PR),逆転写酵素(RT),インテグラーゼ(IN),さらにウイルス由来のアクセサリー蛋白のいくつかも粒子内に存在しており,様々な働きをしていると考えられている(図1).ここではHIVの生活環に合わせて各ステップごとに順を追って研究の現状や最近のトピックを取り上げ,併せて将来の展望を述べてみたい.図2にはHIV粒子が生成してから感染するまでに経るイベントを模式的に示した.


大阪大学微生物病研究所ウイルス感染制御分野
(〒565-0871 吹田市山田丘3-1)
Structure and Function of HIV Virion
Junichi Sakuragi
Department of Viral Infections, Research Institute for Microbial Diseases Osaka University
3-1Yamadaoka, Suita-city, Osaka 565-0871 Japan

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