学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.77-82


[特集1〔Overviewセミナー〕]

12.HIV(1)
―免疫応答によるHIV感染・増殖の制御―

松 下 修 三

要旨:  HIV(human immunodeficiency virus)感染症も他のウイルス感染と同じで,感染後すぐに細胞性・液性の免疫応答が起こり,ウイルスの増殖抑制に作用する.しかし,HIVは排除されずに持続的に増殖し,CD4ヘルパーT細胞を破壊して,宿主を免疫不全に至らしめる.慢性感染期にも細胞性・液性の免疫応答が検出されるが,いずれも不十分で,免疫をエスケープする変異株の出現を許し,最終的には有効な免疫応答はみられなくなる.これらの一連のプロセスは感染初期にHIV特異的CD4ヘルパーT細胞が破壊されるためにおきると考えられている.HIVの初感染では急性ウイルス感染症に共通の全身症状があらわれる.この時点で,強力な抗ウイルス剤による治療が行なわれると,HIV特異的ヘルパーT細胞が温存され,感染者の予後を改善すると報告された.我が国でも,急性(初)感染症例がまれではなくなってきている現状を踏まえ,日常診療の場でも常にHIV感染症を鑑別診断として考慮することが重要である.


熊本大学エイズ学研究センター,病態制御分野
(〒860-0811 熊本市本荘2-2-1)
Immune control of HIV―infection and replication
Shuzo Matsushita MD, PhD
Division of clinical retrovirology and infectious diseases, Center for AIDS Ressearch, Kumamoto University
2-2-1Honjo Kumamoto 860-0811, Japan

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