学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.33-40


[特集1〔Overviewセミナー〕]

6.パラミクソウイルス(2)
―分子レベルで見たウイルスと宿主の攻めと守り―

伊 藤 正 恵

要旨: はじめに
 生体にウイルスが侵入すると,宿主となった生体は,あらゆる手段でその増殖を阻止し排除しようとする.ウイルス感染の初期,特異免疫が機能し始める前に重要な役割を担うのがインターフェロン(IFN)系である.特にI型IFN(すべての亜型のIFN―αとIFN―β)は,ウイルス感染に呼応してあらゆる細胞から分泌され,細胞表面のレセプター(IFNAR)に結合後,下流のシグナル伝達系を通して抗ウイルス状態を確立する.この経路は非常に速効性かつ強力であり,これに対し,多くのウイルスが抗IFN機構を備えるよう進化してきた.ポックスウイルス,ヘルペスウイルスやアデノウイルスなどのDNAウイルスは,IFN regulatory factor(IRF),‘Janus’tyrosine kinase(Jak),signal transducer and activator of transcription(STAT)やds―RNA dependent protein kinase(PKR)などのIFN経路上の分子に対する阻害物質を自身でコードしている.また,レトロウイルス,プラス鎖RNAウイルスや二重鎖RNAウイルスも宿主のIFN系をさまざまな方法で阻害することが知られている.一方,パラミクソウイルスを含むマイナス鎖RNAウイルスでは,最近になり,ゲノムのcDNAからウイルスを回収するリバースジェネティクス法が確立され,ようやくこれまで機能不明であったいわゆるアクセサリー蛋白が,IFNをはじめとする宿主の抗ウイルス作用に対抗するウイルス側因子であることが明らかとなってきた.本稿では,アクセサリー蛋白を中心に,その発現機構と抗・抗ウイルス機構について概観したい.


大阪府立公衆衛生研究所
(〒537-0025 大阪市東成区中道1-3-69)
Paramyxovirus(2)
―Molecular view of offensive and defensive activities between viruses and their hosts―
Masae Itoh
Osaka Prefectural Institute of Public Health
1-3-69, Nakamichi, Higashinari-ku Osaka 537-0025, Japan

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