学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.207-216


[平成13年度杉浦賞論文]

ヘルペスウイルス遺伝子発現制御因子の機能発現機構の解明

川 口   寧

要旨: 1.はじめに
 ウイルス研究において,遺伝子発現制御機構の解析は,「ウイルスの増殖が如何に制御されているか?」といった根本的な問題を明らかにするものであり,研究の重要な位置を占める.また,現在,一部のウイルスは腫瘍性疾患や先天性遺伝子疾患に対するベクターとして遺伝子治療やウイルス療法の分野で幅広く利用されている.この点におていも,効率的な外来遺伝子の発現制御を行うためにはウイルスの遺伝子発現機構を理解することが必須となってくる.
 ヘルペスウイルス科はα,β,γの3つの亜科より構成され,全ての脊椎動物から昆虫にいたるまで約130種類が分離されている43).ヘルペスウイルスの最大の特徴は,潜伏感染を引き起こすという点にある.ヘルペスウイルスは初感染後も宿主体内に潜伏感染し,免疫抑制状態といった宿主の変化に伴って再活性化し,回帰発症を引き起こす43).この潜伏感染するという性状ゆえに,その根本的な制圧が困難であり,医学・獣医学の両領域において重要な研究課題である.我々は,様々なヘルペスウイルスの遺伝子発現制御因子に焦点を当て,その機能発現機構を解析してきた.本稿では,筆者らがすすめてきた研究の中でも,特に,ヘルペスウイルスのプロトタイプである単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)に関する解析について概説するとともに,最新の知見も合わせて紹介する.


東京医科歯科大学・難治疾患研究所・細胞制御学分野(旧腫瘍ウイルス)
(〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45)
Functional Analyses of Regulatory Proteins of Herpesviruses.
Yasushi Kawaguchi
Department of Cell Regulation(formerly Tumor Virology), Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University.
1-5-45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8510, Japan.

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