学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.191-201


[特集2〔第49回日本ウイルス学会学術集会シンポジウム「ウイルス感染の吸着から放出まで」〕]

4.Epstein―Barrウイルスの増殖機構:
ウイルスゲノム複製を中心として

鶴 見 達 也

要旨:  Epstein―Barr virus(EBV)は伝染性単核球症の原因ウイルスとして知られているが,バーキットリンパ腫,上咽頭がん,T細胞白血病,胃がん,乳がん等との関連が指摘されているヒトがんウイルスである.バーキットリンパ腫の樹立細胞からEBVゲノムが脱落すると腫瘍原性がなくなり再びEBVが感染しEBVゲノムが導入されるとその細胞は腫瘍原性を獲得することから,細胞にEBウイルスゲノムが複製保持されることが腫瘍原性に密接に関連していることが示唆される.従ってウイルスゲノム複製及び保持機構の解明はEBV感染がん細胞の制御を考える上で重要な研究領域である.
 DNAウイルスであるEBVは宿主細胞の核をゲノム複製の場とするが,潜伏感染状態とウイルス産生状態でウイルスゲノム複製機構が異なる.潜伏感染状態ではウイルスゲノムはヒストン蛋白質と結合したヌクレオゾームとして存在し染色体DNAと同じようにS期に同調して1回複製される.このゲノム複製は細胞周期に依存した複製様式から染色体複製開始の制御に関わる宿主蛋白質がEBVゲノムと相互作用をしていることが最近相次いで報告された.一方,ウイルス産生状態においては潜伏感染時とは異なる複製開始領域oriLytから複製が開始し少なくとも複製後期においてはローリングサークル型複製様式によりウイルスゲノムは複製される.ローリングサークル型複製フォークで働くDNA合成装置は6種のウイルス由来複製蛋白質群(DNAポリメラーゼ複合体,一本鎖DNA結合蛋白質,ヘリカーゼ/プライマーゼ複合体)から構成される.
 本稿では(1)潜伏感染時のEBVゲノム複製に関与することが明らかとなったOrc, CDC6,MCM complexの細胞内動態についてのぞく(2)EBV複製フォークで働くウイルス複製蛋白質の機能,蛋白質間相互作用について我々がこれまでに得た知見を紹介し,EBV複製フォークのモデルを提示すること,また対照となるバクテリオファージなどの原核生物,真核生物複製系と比較検討する.


愛知県がんセンター研究所腫瘍ウイルス学部
(〒464-8681 名古屋市千種区鹿子殿1-1)
Molecular Mechanism of Epstein―Barr Virus DNA Replication.
Tatsuya Tsurumi
Division of Virology, Aichi Cancer Center Research Institute
1-1, Kanokoden, Chikusa-ku, Nagoya 464-8681, Japan

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