学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.185-190


[特集2〔第49回日本ウイルス学会学術集会シンポジウム「ウイルス感染の吸着から放出まで」〕]

3.C型肝炎ウイルスの感染機構

松 浦 善 治

要旨: はじめに
 輸血ならびに血液製剤は近代医療に不可欠なものである反面,患者は常に感染症や免疫反応等の問題に曝される事になる.この様な感染症の典型がHCV感染であったが,高感度なスクリーニング系の導入により,輸血や血液製剤に起因するHCV感染はほぼ制圧された.しかしながら,既に全世界で2億人,本邦だけでも2百万ものHCVキャリアーが存在している1).HCV感染の最も深刻な問題点は,惹起した肝炎が高率に慢性化し,さらに持続感染したまま肝硬変,肝癌へと移行する点である.本邦の癌死の第3位は肝癌であり,その8割以上がHCV感染に起因しており,年間約3万人が死亡している.現在,多くのC型慢性肝炎患者に対してインターフェロン療法が施行されているものの,治療後に肝機能が持続的に正常化する著効例は3割程度である.この様にHCVは今や我が国の国民病であり,キャリヤーの発症予防やウイルスの生体からの排除を目的とした抗ウイルス剤や治療用ワクチンの開発が急務である.しかしながら,現時点でHCVを効率よく増殖できる培養細胞系や感受性を示す実験動物もチンパンジー以外には見つかっておらず,ワクチンや治療薬の開発は困難を極めている.


大阪大学微生物病研究所エマージング感染症研究センター
(〒565-0871 吹田市山田丘3-1)
Infection mechanisms of hepatitis C virus
Yoshiharu Matsuura
Research Center for Emerging Infectious Diseases Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University

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