学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.15-20


[特集1〔Overviewセミナー〕]

3.デング出血熱の病態解明の進展とワクチン開発の現状

倉 根 一 郎

要旨: 1.はじめに
 トガ・フラビウイルスは多くのウイルスがヒトに感染し重篤な感染症をおこす.西ナイルウイルス,黄熱等,近年世界各地で問題となっているものも多いが,そのうちデングウイルスは患者数,世界的な分布,重篤度等から最も重要なものと言える1,2).デングウイルスは蚊によって媒介されるフラビウイルスである.デングウイルス1型―4型の4つの血清型が存在し,いずれの血清型のデングウイルスの感染によっても同様の病態を示す.即ち,病態からは感染したデングウイルスの型は推定できない.デングウイルスに感染した場合多くは不顕性感染に終わるが,典型的な症状を示す場合一過性の熱性疾患であるデング熱,致死的疾患であるデング出血熱という2つの異なる病態を示す.
 重篤なデング出血熱の病態の解明はデングウイルス感染症研究の最も大きなテーマの一つとなってきた.なぜ,ある患者はデング熱で終わり,ある患者はデング出血熱の病態を示すか,即ち,デング出血熱の病態はなぜおこるかは現在でもデングウイルス感染症研究の最も大きなテーマといえる.デング出血熱の病態機序は過去2つの観点から説明がなされてきた.一つは感染する生体の免疫状態によるとするもの,一つはデングウイルス自体の毒性の違いによるとするものであり,従来この2つの説は互いに相反するものと考えられてきた.しかし,近年のデータからは,ウイルスの性状,生体の免疫状況いずれもがデング出血熱の病態形成の一面を反映しているとする考え方が支持されてきている.以下,このような考え方の基となるデータを示しながら,主にデング出血熱の病態解明の現状について述べる.


国立感染症研究所ウイルス第一部
(〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1)
Development in the analysis of the pathogenesis of dengue hemorrhagic fever, and current status of dengue vaccine.
Ichiro Kurane
Department of Virology1, National Institute of Infectious Diseases
1-23-1Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162-8640 Japan

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