学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.135-139


[特集1〔Overviewセミナー〕]

21.サイトメガロウイルス:
CMVはいかにして宿主細胞を征服するか

渡 辺 慎 哉

要旨: 1.はじめに
 ここでは,各種サイトメガロウイルスのなかからヒトサイトメガロウイルス(HCMV)を選び,最近のトピックスから宿主・寄生体関係を中心に概説する.
 HCMVはきわめて種特異性の高いウイルスであり,ヒト以外には感染しない.培養細胞レベルでHCMVが効率よく複製できるのはヒト正常線維芽細胞に限られる.一方,ヒトの個体レベルでは,ほとんどの臓器・組織にHCMVの感染を観察することができる.これらHCMVに特徴的な種特異性と汎臓器向性(トロピズム)は宿主細胞側のさまざまな因子によって規定されるといえる.
 HCMV感染を規定する因子は,HCMVの宿主細胞への吸着・侵入からウイルスゲノムDNA複製・ウイルス粒子形成,さらに細胞外への放出までのさまざまな段階に関与している可能性がある.これらの宿主側因子にはウイルス側因子との相互作用が当然あるだろうし,ヒト正常線維芽細胞におけるHCMV感染ではその両者の相互作用があらゆる段階でウイルスの増殖にとって都合よく機能していると考えることができる.
 HCMV感染に関与する宿主側因子(遺伝子)はレセプターをはじめとしてほとんど同定されていない.しかしながら,HCMVの全ゲノム配列の決定から宿主のヒトゲノムの解明に至って遺伝子の情報的基盤は十分な状況になり,さらに,ゲノムプロジェクトから生み出されたテクノロジーで遺伝子の網羅的解析が可能となって方法論的基盤も揃いつつある.これらを総合的に駆使してウイルスの感染に関与する宿主因子・遺伝子を体系的にあきらかにすることが期待できる時代となった.今回は,その端緒として,HCMVが許容細胞であるヒト正常線維芽細胞に感染して最終的に支配下におくまでの網羅的ヒト遺伝子転写プログラムを紹介する.


東京大学医科学研究所
(〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1)
Cytomegalovirus:strategy for conquering host cells
Shinya Watanabe
The Institute of Medical Science, The University of Tokyo
4-6-1Shirokanedai Minato-ku Tokyo 108-8639

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