学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.129-134


[特集1〔Overviewセミナー〕]

20.EBウイルス(基礎系)
―EBウイルス潜伏感染に関与するウイルス遺伝子産物の機能解析―

原 田 志津子

要旨:  EBウイルスはこれまでに9種類知られているヒトヘルペスウイルス(HHV1〜5,6A,6B,7,8)のひとつ(HHV4)であり,伝染性単核症の病原ウイルスであるが,ほとんどのヒト宿主にとっては,幼少期の不顕性感染後は終生体内におとなしく潜伏感染するウイルスである.37年前にバーキットリンパ腫組織由来細胞から電子顕微鏡を使って発見され,その後上咽頭癌組織にウイルスDNAが見つかった経緯から,ヒトに感染するウイルスの中では初めて癌ウイルスと呼ばれた.しかも免疫不全,免疫抑制状態にある個体や患者にEBウイルスが関係したリンパ腫やBリンパ球増多症が発症する事が知られ,さらに最近の分子生物学的分析によって,前述の腫瘍以外にT細胞腫,胃癌,ホジキン病など様々な腫瘍との関連が疑われるようになってきた.このようなEBウイルス感染による腫瘍発生メカニズムはEBウイルス研究者の大きな興味の対象であるが,未だ解明されてはいない.しかし発がん本態の基を形作っているEBウイルスの潜伏感染の機構こそ解明されるべき最重要課題であり,EBウイルス感染に起因する疾病や発がんを予防・治療する為の知識基盤を確立するうえで極めて重要な基礎研究である.最近のEBウイルス基礎研究の焦点はこの潜伏感染機構解明に絞られ,その流れはウイルス産物の関与にむき,核蛋白や膜蛋白の関与メカニズムが徐々に明らかになってきている.現在までの研究の詳細は優れたレビューにお任せし1,2),本稿では筆者らが行ってきた核蛋白EBNA―2,EBNA―LPの機能解析の結果を中心に,現在考えられているメカニズムのアウトラインを示したい.


国立感染症研究所ウイルス第一部
(〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1)
Epstein―Barr virus Gene Expression in Latent Infection and B―lymphocyte Growth Transformation
Shizuko Harada
Department of Virology I, National Institute of Infectious Diseases
1-23-1Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162-8640 Japan

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