学会誌「ウイルス」

第52巻 1号 2002年 PP.123-127


[特集1〔Overviewセミナー〕]

19.EBウイルス(1)
―EBV感染成立と宿主免疫応答のダイナミクス―

葛 島 清 隆

要旨: I.はじめに
 Epstein―Barr virus(以下EBV)はBurkittリンパ腫,上咽頭癌の発症と深くかかわりがあり,Hodgkin病,胃癌などとの関連が注目されている.また,先天性免疫不全,AIDS患者や臓器移植後などで問題になっているlymphoproliferative disorders(LPD)の主な原因ウイルスとして重要である1).ほとんどの人は小児期から青年期にかけてEBVの感染を受ける.その症状の多くは非特異的な感冒症状か,あるいは無症候性と推測されるが,一部の人では伝染性単核球症(infectious mononucleosis,以下IM)として顕性発症するため初感染像として捕らえることができる.
 EBVは初感染の後に末梢血Bリンパ球の一部に潜伏感染し,既感染者は生涯にわたりウイルスゲノムと共存し,ウイルスを唾液中に排泄する.種々の免疫低下時(先天性免疫不全患者や臓器移植後に拒絶予防の免疫抑制剤の投与を受けている患者など)に,これらのウイルスによる感染症が頻発することから,潜伏感染しているウイルスの再活性化を生体の免疫機構が制御していることが推測できる.初感染時,およびその後の潜伏感染時いずれにおいてもウイルス感染細胞の活動を制御しているおもな免疫担当細胞は,CD8陽性の特異的細胞障害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte,以下CTL)であると考えられている2).
 種々のEBV感染症において,このようなCTLの働きを明瞭に示すために,抗原特異的なCD8+T細胞をsingle cellレベルで同定する方法が近年相次いで開発された. 1)Enzyme―linked immunospot assay,2)Cytokine flow cytometry(CFC),3)Tetrameric MHC―peptide complex(tetramer)などであるが,これらの新しい技術の導入により,より定量性を持って,ウイルス特異的CD8+T細胞の存在を示すことができるようになった.本稿では,CFC法とtetramer法に焦点を絞り,その原理から応用について述べる.


愛知県がんセンター研究所腫瘍免疫学部
(〒464-8681 名古屋市千種区鹿子殿1-1)
Epstein―Barr virus(1)
―Establishment of the infection and dynamics of virus―specific T cell responses―
Kiyotaka Kuzushima
Division of Immunology Aichi Cancer Center Research Institute
1-1Kanokoden, Chikusa-ku, Nagoya 464-8681, Japan

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