第52巻　1号 2002年　PP.103-108

[特集１〔Overviewセミナー〕]

１６．HTLV―１：
成人T細胞白血病における多段階発ガンの分子機構

藤　井　雅　寛¹，樋　口　雅　也¹，遠　藤　啓　一¹，高　橋　利　幸¹，大　橋　美奈子¹，手　塚　貴　文¹，篠　原　博　彦¹，平　田　　　明¹，森　　　直　樹²

要旨：　（１）はじめに
　ヒトT細胞白血病ウイルス１型（human T―cell leukemia virus type１：HTLV―１）は，成人T細胞白血病（adult T―cell leukemia：ATL）の原因ウイルスである１〜３）．HTLV―１はATL以外に，HTLV―１関連脊髄症（HTLV―１associated myelpathy, Tropical spastic paraparesis），HTLV―１関連葡萄膜炎の発症に関与する．また，関節炎，肺臓炎などへの関与も示唆されている．さらに，免疫抑制を引き起こし，他の感染症を悪化させる．例えば，エイズ，C型肝炎などの病状進行を加速する事が知られている．
　ATLはCD４陽性T細胞に由来した，きわめて悪性度の高い白血病である１，２）．ATLは既存の抗癌剤に対して抵抗性で，一旦発症すると，患者は平均１年程で死亡する．HTLV―１は主として母乳を介して母から子へ感染し，一旦感染が成立すると，終生潜伏感染する．その中から，５％の感染者が５０―７０年の潜伏期間を経てATLを発症する．従って，複数の宿主因子の異常が発症に関与すると考えられている．統計学的な解析は，５つの因子が発症へ関与することを示した４）．ここでは，ATL研究について，以下の４点，１，HTLV―１の潜伏感染，２，HTLV―１によるT細胞不死化，３，HTLV―２の低病原性，４，ATL発症に関与する宿主因子，について紹介する．

¹新潟大学大学院医歯学総合研究科・ウイルス学分野
²琉球大学・ウイルス学講座
(〒951-8510 新潟市旭町通り1-757)
HTLV―１：Multistep leukemogenesis of adult T―cell leukemia
Masahiro Fujii¹, Masaya Higuchi¹, Keiichi Endo¹, Toshiyuki Takahashi¹, Minako Ohhashi¹, Takafumi Tezuka¹, Hirohiko Shinohara¹, Akira Hirata¹, Naoki Mori^2
1Division of Virology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences,
²Department of Virology, Faculty of Medicine, University of the Ryukyus

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