学会誌「ウイルス」

第51巻 2号 2001年 PP.123-134


[総説]

1.HIVのゲノム多様性:メカニズムとその生物学的意義

武部 豊

要旨: HIVがヒト集団に伝播し,世界中に播種する過程は,同時にウイルスゲノムが劇的な多様性を獲得し,適応していく過程でもある.HIVが多様性を獲得するメカニズムには,複製エラーによる突然変異と,遺伝子組換えの2つが関与するが,さらに,ウイルスのもつ生体内での高度でしかも持続的な増殖能によって加速され,驚異的な多様性が生み出される.HIVは地球上の生物の中で最も高速で変異する生命体であり,その変異速度は真核細胞の100万倍にも達する.これらの性質は,増殖環境の変化に対して,HIVが適応・進化していくメカニズムの生物学的基盤ともなっている.薬剤耐性ウイルスの急速な出現は,このウイルスのもつ驚異的なflexibilityを反映する現象の一例である.本稿では,世界流行のもっとも主要な原因ウイルス株であるHIV−1を中心として,HIVのゲノム多様性獲得機構と多様性がもたらす生物学的・ウイルス学的意義について論じたいと考える.


国立感染症研究所エイズ研究センター
(〒162 東京都新宿区戸山1−23−1)
HIV−1Genetic diversity:Mechanism and its biological implication
Yutaka Takebe
Laboratory of Molecular Virology and Epidemiology, AIDS Research Center, National Institute of Infectious Diseases
Toyama,1−23−1, Shinjuku−ku, Tokyo 162, Tokyo

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